【自分たちはエスプレッソ豆だ】クラウス・ブッセ イタリア車デザイナーの仕事 AUTOCARアワード2021
公開 : 2021.06.16 18:05
ドイツ出身のクラウス・ブッセは、5つのイタリア車ブランドのデザインを担当するステランティスの重鎮です。
もくじ
ー5ブランドを統括する自動車デザイナー
ー移り変わる時代とクルマ
ー環境に価値を与えるデザイン
ー重要なのはクルマが作られるプロセス
ー偶然からメルセデスで学んだブッセ
ーチームを率いる責任感
ークライスラーでの仕事
5ブランドを統括する自動車デザイナー
ほとんどのデザイン責任者は、モーターショーのプレスデーに、輝かしくうっとりするようなコンセプトを1つ出して驚かせたいと思うだろう。しかし、2019年のジュネーブ・モーターショーで、クラウス・ブッセと彼のチームは、最も優れているとされる2つのコンセプトを打ち出した。
1つは、来年登場見込みのアルファ・ロメオ・トナーレ、もう1つはフィアット・セントベンティである。電動式のセントベンティは、フィアットの創業120年を祝うと同時に、次期パンダの外観とパワートレインについても強い示唆を与えていた。
アルファへの称賛は、主にそのハンサムなプロポーションと繊細なディテールにフォーカスしていたが、セントベンティは2020年代に必要な都市型コンパクトカーのあり方を追求しており、それがEVである理由でもある。顧客と環境のニーズに合わせて開発することは、画期的なコンパクトカーを生み出してきたフィアットの歴史にふさわしいものであり、かつてイタリアの自動車産業を特徴づけていた、より思慮深いデザインの復活といえるだろう。
トナーレとセントベンティの後には、2つの注目すべき市販モデルが登場する。全く新しいEVのフィアット500と、シェイプアップされたミドエンジンのマセラティMC20は、最近のフィアット・ティーポや短命なマセラティ・ギブリよりも明らかに刺激的である。
クラウス・ブッセは、アルファ・ロメオ、マセラティ、フィアットだけでなく、アバルトやランチアのデザインも担当している。この5つのブランドについて、ブッセはイタリアの自動車デザインの本質と、10年前、15年前に比べて「劇的に進化」した社会の中でのクルマのあり方について、じっくりと考えてきた。
ブッセは次のように述べている。
「当時は、クールで美しく、注目されるようなものを作ろうとしていました。デザインがすべてであり、中心でした。もちろん、パッケージや顧客のこと、機能、品質も重要でした。しかし今日では、社会の中でのわたし達の役割が非常に重要になっています」
「500ではそれがわかりやすいですが、MC20でもわかるでしょう」
移り変わる時代とクルマ
電動化された新型500では、ブッセが率いるデザインチームは、現在アイコンとされているものに取り組んでいた。
「単に新しいデザインを検討するのではなく、1957年の社会に目を向けました。当時の500はモビリティの民主化とラ・ドルチェ・ヴィータ(気ままで自由な生活)の象徴であり、一方、2007年の500はポップカルチャーと『YES WE CAN』の政治運動の象徴でした。世の中には前向きな姿勢がありました」
「数年前、開発作業が始まったとき、わたし達は『さて、社会の何が変わったかな』と考えました」
500の電動化の理由として、ブッセは当然ながら環境意識を挙げており、パンデミック前からこのような考え方があったものの、社会にはすでに「冷静な意見」があったと付け加えている。
「テクノロジーがどこに向かっているのかわからないという不安がありました」
ブッセのチームに課せられた課題は、この変化を新型500のデザインに反映させることだった。1つの方法は、洗練されたカラーでクルマをデビューさせることだった。「より敬意を持ったアプローチを反映したもの」だという。
それよりも明らかだったのは、500の顔を作り直すことだった。リアにエンジンを搭載した1957年のモデルと同様に、EVの500にはフロントにエアインテークが必要ないため、この作業は容易に思えた。
3つの案が出て、すぐに2つに絞られた。1つは2007年モデルのヘッドライトの位置を維持し、「非常に楽観的なルック」を作り出すというもので、もう1つは1957年モデルのようにライトを直立させ、その上にボンネットのシャットライン(パネルとの隙間)を設けるものだ。
「そうすることで、よりシリアスな印象を与えることができますが、人々は『1957年に戻っただけだ』と言うでしょう。どちらも好きなんですが、どうやって組み合わせたらいいのだろうか?」
ブッセが提案したのは、ライトを上下に分割し、その上部をボンネットと一緒に持ち上げるデザインだった。
「上が『眉』、下が『目』ですね。コストはかかりましたが、みんな賛成してくれました」