【蓼食う虫も好き好き】フィアット・ムルティプラ 美しくも醜い「魅力」に迫る

公開 : 2021.07.03 06:05  更新 : 2021.07.27 14:44

醜いクルマとして名高いフィアット・ムルティプラ。奇抜なデザインに隠れがちな魅力や、誕生の軌跡を辿ります。

美は見る者の目に宿る

text:AUTOCAR UK編集部
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

フィアットのムルティプラは、1990年代後半に発売して以来、数え切れないほどの「醜いクルマ」リストの主役となってきた。優れたパッケージングや数々の賞を受賞したこと、そして徹底的に良いクルマであったことを忘れ、多くの人がその挑戦的なスタイリングに目を向けることができないのだ。

腰を据えて見直してみれば、ポンティアック・アズテック、サンヨン・ロディウス、フォード・スコーピオのような悪名高い醜悪なクルマと一緒にランク付けされるよりも、ずっと良い結果が得られるはずだ。むしろ、シトロエン2CV、BMCミニ、ルノー4などと同列に語られるべきではなだろうか。ここでは、美しく醜いフィアット・ムルティプラへの頌歌をお届けする。

フィアット・ムルティプラ
フィアット・ムルティプラ

フィアット600

ムルティプラの歴史は、1955年に発表されたフィアット600から始まる。リアエンジンを搭載した水冷車で、BMCミニ、フォルクスワーゲンビートル、ルノー4CVに相当するイタリアの大衆車として開発された。

フィアットのミラフィオリ工場では270万台の600が生産されたが、南米、スペイン、ドイツ、旧ユーゴスラビアでの生産を含めると500万台に近い数字になる。

フィアット600
フィアット600

象徴的な存在ではないが、600は人気の高いフィアット500よりも汎用性が高いことがわかった。アバルトはレーシング・ドライバーになるためのバージョンを作り、ギア(Ghia)は裕福な人々のためのジョリーを作ったが、ここで最も重要なのは、フィアットの仕事である。フィアット600は、世界初の量産型MPV(ミニバン)を生み出した。

フィアット600ムルティプラ

フィアット600ムルティプラは、パッケージングの勝利と言えるクルマだった。リアから見ると、エンジンをリアアクスルの後ろに搭載した標準的なフィアット600と同じだが、キャビンはフロント全体を包むように広がっていた。フロントはほとんど垂直で、まるで小さなバンのようだ。

素晴らしい。ドアは4枚(フロントに2枚、リアに2枚のリアヒンジ式)。必要に応じて3列シートにすることもできる。また、後席を倒すと約2mの積載スペースが生まれ、ダブルベッドにすることでキャンピングカーに変身させることもできる。

フィアット600ムルティプラ
フィアット600ムルティプラ

600ムルティプラのスケッチ

これは、ダンテ・ジアコーサ(1905~1996年)が開発したフィアット600ムルティプラのイラストだ。ドライバーと助手席が前輪の上に乗っているため、1列目は少し窮屈かもしれないが、大人6人、または大人4人とその荷物を乗せるのに十分なスペースがある。1950年代には、祖父母の間に子供を押し込むことも許されていた。

フィアットは「このクラスのクルマで、これほど多様な使い方ができるものはない」と主張した。「ファミリーカー、デリバリーカー、街中でも田舎でも、600ムルティプラはどんなニーズにも応えます」

フィアット600ムルティプラ
フィアット600ムルティプラ

1960年に発表された600 Dムルティプラは、エンジンを633ccから767ccに拡大した。

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