【11台のコレクション】オースチン・セブン 高級ブランド・ディーラーの起点 前編
公開 : 2021.07.31 07:05
英国ではロールス・ロイスの第一人者として知られるポール・ウッド。多くを経験してたどり着いたのは、起点となった戦前のオースチン・セブンでした。
ロールス・ロイスと並ぶオースチン・セブン
伝統的なブランドの専門家として知られる人物の、プライペートガレージの内側は興味深い。仕事とはまったく別のクルマが並んでいたりするからだ。
英国東部、エセックス州に拠点を構えるロールス・ロイスやベントレーの専門店、P&Aウッドの代表を務めるポール・ウッド。彼のガレージへ今回はお邪魔させていただいた。
ロールス・ロイス・ゴーストやファントムが並ぶ駐車場の一角に、オースチン・セブンが置いてある。彼が毎朝、片道8kmほどの通勤で乗っているクルマだ。
筆者が最初に訪れた時、早朝の相棒に選ばれていたのは、自宅で保管する11台の1台、セブン・ルビー。「通勤ルートの殆どが、すれ違いに気を使うような狭い道。セブンにはピッタリの、完璧なドライブになるんです」。ポールが話し始める。
「オースチン・セブンは、わたしを元気づけてくれます。相手にしないクルマ好きもいますが、セブンはこの会社のルーツといえるモデル。兄弟で同僚のアンドリューにとっても、特別な気持ちにさせてくれるクルマです」
「週末は、家族や友人とセブンでドライブ。ボーリューの街で開かれるナショナル・オースチン7ラリーは、毎年楽しみにしているイベントです。2021年で59年目。3台のセブンで、240km程を走ります」
「ザ・プレウォー・オースチン・セブン・クラブも、友好的なメンバーで構成された、素晴らしいグループですよ」。オースチンと彼との結びつきは、1950年代後半に、お小遣い稼ぎで父のエイトを掃除していたのがきっかけだったという。
森の倒木を片付けてセブンの資金に
「子供の頃は、ウッドグリーンの公営住宅に住んでいました。その時に自分のクルマとして探したのが、安価で一般的だったセブン。ルビーと呼ばれる仕様を見つけたものの、15ポンドで予算を超えていました」
「資金を稼ぐため、エッピング・フォレストという森で倒木を片付けることを思いついたんです。手引のノコギリで、1年近くかけて大きな木を運べる大きさに切りました。父は、フォード100Eで木を運ぶのを手伝ってくれました」
「積みすぎて、フロントが持ち上がることも。その木を近所で売り、セブンに充分な資金を得ました。でも父は家に置かせてくれなかったので、隣町に小屋を借りました」
「友人と一緒に楽しんでいるうちに、徐々にクルマは傷みます。叔父へ相談すると、すべてをバラして再塗装することに。生まれ変わった姿へ感動し、自分の考えを一変させました」。ほどなくして両親は離婚。双子の兄弟は別々に住むことになった。
ポールは父と、アンドリューは母と暮らしたそうだ。「アンドリューは時々遊びに来て、ルビーの世話を手伝ってくれました。エンジンから煙が漏れるようになり、人の手を借りながら部品取り車を購入。昔の人は、親切でしたね」
「ジェームスというバイクと、マイクロカーのボンド・ミニカーを購入した頃、セブンを売却すればお金になることに気が付きました。当時は苦労せずに売れたんです。叔父の影響を受けて、すぐに勝手を覚えました」