【市民は急いでいない】EV普及率、楽観視できず 英国自動車工業会が予測 政府予測とずれ
公開 : 2021.08.10 18:05
2035年にエンジン車の販売が禁止される英国で、EVの普及率を巡り政府諮問機関と自動車業界の意見が対立。
政府機関の予測は楽観的?
この1年半で学んだことがあるとすれば、未来予測を鵜呑みにすることは危険であるということだ。英国のSMMT(自動車工業会)は、国内における2035年までのEV普及率の予測を発表した。
EV購入時の補助金から充電ネットワークの拡充、需要に見合ったモデルの発売まで、さまざまな前提を置かなければならないため、必然的に欠陥のある予測となるが、とても興味深いものである。
SMMTは、「高」、「中」、「低」の3つの予測シナリオを用意している。言い換えれば、最良と最悪、そしてその中間のケースだ。
「中」のシナリオでは、2026年の英国EV登録台数は70万台(今年は約16万5000台)と予測され、VAT(付加価値税)の完全凍結と補助金制度が強化されれば130万台に増える可能性があるとしている。英国全体の新車登録台数が230万台と予測されることから、半分以上が電動化されることになる。
2025年には登録台数の25%がEVとなり、ICEの新車販売が禁止される2030年には70%まで増加する(ハイブリッド車が禁止される2035年には100%となる)と見られている。
しかし、これはあくまで新車の販売台数であり、実際に道路を走るクルマのEVの割合はどうなるかというと、2030年はわずか20%、2035年も46%にしかならない。つまり、半分以上はまだICE車ということだ。
そこから14年後にICE車が廃車を迎えると仮定すると、現在50歳以上の人がEVに乗ることはないかもしれない。それまでにEVの価格と性能が魅力的なものになることを期待したいところだが。
SMMTは、最良のシナリオでも、英国のCCC(気候変動委員会)の第6次炭素予算の目標を達成できないと予測している。第6次炭素予算は2020年12月に発表されたもので、2033年から2037年の温室効果ガス排出量の上限などを定めたものだ。英国政府はこの予算をもとに政策を決定しているため、SMMTとの食い違いは大きな懸念材料となる。
CCCは、ICE車の販売が禁止される2030年には、新車登録台数の97%がEVになると予測している。SMMTの予測よりもはるかに多い数字だが、EVの普及に期待しているのか、それともPHEVの販売を過小評価しているのか、どちらともいえない。
双方の思惑があるのは当然だが、このギャップは、楽観主義と慎重な現実主義の違いを浮き彫りにしている。また、EVへの移行予測がいかに困難であるかを示すものでもある。