【注目したい】バイデン政権のEVシフト 全EV化の欧州に追従しない道
公開 : 2021.08.24 06:15 更新 : 2021.12.13 21:21
欧州とアメリカでは、EV推進のプロセスが大きく異なります。バイデン政権が掲げたのは、新車の半分についてのEVシフト。エンジン車の販売禁止を急がぬ戦略を分析します。
欧・米 EV推進の決定的な違い
欧州委員会が7月14日に、以前から2050年ゼロエミッションなどを内容として掲げている「European Green Deal」の一環として、EUの気候、エネルギー、土地利用、交通、税制を適切なものにするための提案をした。
すると8月5日、今度は米国ホワイトハウスがバイデン大統領の名前で、環境に優しい乗用車および商用車についてのリーダーシップを推進していくためのステップを発表した。
日本の一部のメディアはこの2つのニュースをまとめて、「欧州に続き米国もEV化邁進、日本の遅れ目立つ」という内容の報道を繰り返している。でも双方のオリジナルの発表内容を読めば、こうした報道が間違いであることに気づく。
欧州委員会の発表は、乗用車および小型商用車の新車CO2排出量を2035年にゼロにすることを義務付けるというもので、エンジンのみで走るクルマはもちろん、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)も禁止し、電気自動車(BEV)と燃料電池自動車(FCEV)のみにするという厳しい方針だ。
一方のホワイトハウスの発表は、ジョー・バイデン大統領が2030年に販売される新車の半数をBEV、PHEV、FCEVなどのゼロエミッション車にするという野心的な目標を設定した大統領令に署名するとある。
設定した年は米国のほうが5年早いが、彼らがゼロエミッションにするのは新車の半分であり、残りはエンジン車でもいいことになる。しかもゼロエミッション車にはPHEVも含めている。
日本も参考にすべき“伝え方”
遅くとも2030年代半ばまでに乗用車新車販売でBEV・FCEV・PHEV・HEV合わせて100%実現を目指すという、昨年12月に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より、緩いと思う人もいるだろう。
いずれにせよ、クルマにある程度くわしい人であれば、欧米の発表が似ているとは到底思わないはずだ。
バイデン大統領は昨年の大統領選挙のときから公約として「Build Back Better(創造的再建)」を掲げてきた。当時現職だったドナルド・トランプ氏への対抗心がストレートに現れたメッセージだ。今回の発表はこの公約に基づくものである。
そのためのロードマップも考えており、環境保護庁(EPA)と米国運輸省(USDOT)は、燃費・排出ガスについての新しい基準を定めた。そこには「前政権が行った有害な後退に対処」とあり、トランプ政権時代の政策をしっかり批判している。
ちなみにこの基準は、カリフォルニア州とフォード、ホンダ、フォルクスワーゲン・グループ、BMW、ボルボの自動車メーカー5社との間で昨年夏に締結された「カリフォルニアフレームワーク合意」の内容を参考にしたものだという。
個人的に感心したのは、規制ではなく基準と表現していることと、このプログラムが約1400億ドルの利益をもたらし、約2000億ガロンのガソリンを節約し、約20億トンのCO2などの排出を削減し、平均的なユーザーが1台のクルマに乗る間に最大900ドルの燃料を節約できるなど、利益面をアピールしている点だ。
メーカー側のメリットについても、技術革新を進め、生産台数を伸ばすとともに、国内のサプライチェーンを強化し、高給で待遇の良い雇用を増やすとしている。政策の優位点をわかりやすく伝えるこの姿勢、日本も参考にしてほしい。