【思い出のクロスフロー】ケータハム・スーパースプリントへ再試乗 理想の1997年式

公開 : 2021.09.19 08:25  更新 : 2021.10.15 13:24

35年前のクラッシュというトラウマを乗り越え、スーパースプリントを購入した英国編集部の1人。その楽しさに、心打たれたようです。

35年前のグッドウッドでのクラッシュ

執筆:Andrew Frankel(アンドリュー・フランケル)
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
1986年、20歳になったばかりの筆者は浅はかだった。サーキットを走るのは、その日が2度目。

コースはグッドウッド。英国で最も容赦ないサーキットの1つだ。クルマはケータハム・スーパースプリント。運転経験の浅い筆者にとって、正確に挙動を掴み取ることは難しい。ピットレーンには、走りを見守る大勢の仲間がいた。

ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)
ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)

威勢よくコースアウトし、最初の1周目。最後のシケインが迫る。スーパースプリントにはどんな走りが可能なのか、筆者は披露することにした。

ここは高速で侵入しバンク角が変化する、クルマとドライバーの本領が試される場所。案の定、不運が待ち構えていた。

もしヘルメットがなかったら、頭を地面にぶつけていただろう。古いロールオーバー・バーは充分な強度を備えていない。ケータハムが横転した勢いで、頭蓋骨は割れていたに違いない。

今から35年前のできごとだ。それ以来、ケータハムは所有してこなかった。だがキットカーとして3台を組み立て、レースへも4度は出場している。そのトラウマから抜け出せる気がしていた。

2020年の夏、英国のロックダウンが明けた時に、最新のスーパーセブンを運転した。見た目はクラシカル。最高出力は控えめな137psだ。

ジェンビー社製のスロットルボディが、エンジンから姿を覗かせる。古いセブンのボンネット横から誇らしげに突き出した、ツイン・ウェーバーキャブレターのように見えた。

シンプルで巧みに操縦できるクルマが好き

やはり、筆者はセブンが大好きだった。パワフルなだけでなく見た目は精悍で、サウンドも偽りない。反応も常に直感的。信じられないほどに速かった。

ロックダウンで自由に外出できなくなり、つぶさに気付かされた。筆者は、シンプルで巧みに操縦できる、素直なクルマが心から好きだということを。

ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)
ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)

記憶を上塗りし、正直な思いを叶える唯一の方法は、ケータハムを購入すること。必ずしも古いセブンである必要はなかった。でも、過去の体験を超えるために、クロスフロー・エンジンは必要だった。

年配の自動車ファンにとって、クロスフローという響きには特別な印象があると思う。進化するケータハムにとって、クロスフローといえばフォードのケント・ユニットのこと。エンジンの片側から混合気を吸い、反対側から燃焼ガスが吐き出される。

ロータスがケント・エンジンを採用したのは60年ほど前。まだ排気量は1.0Lで、最高出力は39psしかなかった。

ケータハムがセブンの製造販売権を取得すると、クロスフロー・エンジンへ改良。セブン・スプリントの排気量は1.6Lになり、最高出力は111psまで高められた。

1985年には1.7Lへボアアップ。ビッグバルブとホットカムが組み合わさり、最高出力は137psへ上昇。セブン・スーパースプリントとして販売された。筆者がグッドウッドで壊したクルマだ。

そのエンジンを再び手に入れる必要があった。反面、今ではケータハム並みに運転が楽しいクルマも何台かある。どのセブンを買うべきかは、かなり悩んだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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