【1930年代の最速マシン】アラード・テールワガーII フラットヘッドV8搭載 後編
公開 : 2021.09.26 17:45 更新 : 2021.10.14 16:03
戦前のスペシャルマシン、アラード・テールワガーII。4.8L V8エンジンを載せ、戦前最速の1台と呼ばれるクルマを英国編集部がご紹介します。
共同所有で救われたアラード
デス・ソワービーが購入しレストアが進められていた、アラード・テールワガーII。1982年、未完成ながらブライトン・クラシックカー・ショーのアラード・オーナーズクラブ・スタンドへ展示された。
ソワービーの貯金には限りがあり、リビルドは時々行き詰まっていた。エンジン音すら聞いたことがなく、諦められない夢のように、クルマを売るつもりは起きなかった。
数年が経ち、2013年。整備されていないコースを走るトライアルレースの出場を考えていた、ビンテージカーの愛好家、ジョン・ローズからソワービーは電話をもらう。
「会話をしばらくしたあと、ローズからFGP 750のアラードを共同所有したいと提案がありました。クルマを見てもらうためローズを招き、そこでお互いに同意したんです」
トライアルレースに夢中になったローズが、当時を振り返る。「始めはモーリス・メジャーを購入したのですが、ひどい状態でした。トライアルに出られるエキサイティングなクルマを探し、戦前のアラードが良いのでは、と思ったんです」
ローズは製造された12台を調査したが、多くのアラードが廃棄されたことを知る。そして、最もオリジナルに近い1台が残っていることを発見した。FGP 750のナンバーが付いたアラードだ。
ローズが続ける。「庭に停まったクルマをソワービーは見せてくれましたが、ブレーキも付いていない不動車でした。共同所有後は、わたしが分解して直し、乗っている姿を見て彼も喜んでくれています。アラードでレースに出ることも」
創業者が起こしたクラッシュの痕跡
ローズがオーナーの1人になると、アラードはオックスフォードシャーのワークショップへ移動。徹底的な検査を受け、フラットヘッド・エンジンは始動の準備が整った。
「ソワービーが一度リビルドしたと話していましたが、本当にひどい状態。キャブレターの調整を加えて、2基のバランスを取って、動くようになりました」
次はシャシー。ステアリングラックと、ハートフォード社製のフリクション・ダンパーを修復した。戦前の活躍を証明するように、プレスコットで創業者のシドニーが起こしたクラッシュの痕跡も発見された。
「ブロックリー社のタイヤを組み、ビンテージ・スポーツカー・クラブ(VSCC)・プレスコットのイベントへエントリー。キャブレターはスイッチのように荒々しく、エキサイティングでした」
マグネトーのリビルドを経て、アラードは従来のパフォーマンスを回復。「自分はドライバーとして凄くはありませんが、アラードは速い。スポーツカー・クラスで競えるのは、タルボT150くらいでしょう」
「シャトー・インプニーのイベントでは、シングルシーターのマシンを含めて、スタートダッシュで6番目に食い込んでいます。レース中、ドアが勝手に開くので、手でドアを閉めながらね」
アラードの運転に慣れた頃、ローズはトライアルレースへの出場を決める。アルミニウムのラジエターに新しいキャブレター、タイヤの空気を補充するコンプレッサー、バッテリーが積まれた。
オリジナルのレザーシートを保存するため、レース用にシートを制作。4本のホイールも新調した。