【007のQに選ばれたE】BMW Z3と750iL、Z8 1990年代のボンドカーを比較 後編

公開 : 2021.10.03 17:45  更新 : 2021.10.12 16:20

ジェームズ・ボンドは英国製モデルを長年愛車に選んできましたが、1990年代、密接な関係を築いたのがBMWでした。英国編集部がその3台をご紹介します。

本当にシルクと呼びたいV型12気筒

執筆:Ben Barry(ベン・バリー)
撮影:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
トゥモロー・ネバー・ダイでボンドカーを演じたE38型BMW 750iL。フロントシート背面に旅客機のような折り畳みテーブルと、バニティ・ミラーを内蔵する。時代を超越した高級感だが、フロントシートの間の小さなテレビは、20年以上の時間経過を感じさせる。

車載電話も、今となっては懐かしいアイテム。前後に1機づつある。オーナーのレエシは今も対応SIMを探し出し、1990年代の重役気分を楽しんでいるという。

アトランタブルーのBMW Z3とブラックのBMW 750iL、シルバーのBMW Z8
アトランタブルーのBMW Z3とブラックのBMW 750iL、シルバーのBMW Z8

多くのハイテクは、7シリーズを同時期のW140型メルセデス・ベンツSクラスより立場的に有利にさせたが、ドライバーの満足度も注目に値する。リアシートの貴兄だけが、うれしいクルマではない。

キーをひねると、V12エンジンはそよ風のような優しい声とともに目覚める。極めて滑らかで、ささやくように静かに回転する。あまりの存在感のなさに、車内ではアイドリングしているのかもわからない。

E36型M3の直6と比べるとシリンダー数は2倍あるが、シングル・オーバーヘッドカムの2バルブ。最高出力は殆ど同じだ。

本当にシルクと呼びたいエンジンは、回転域を問わずシームレス。バターのように流暢なATと協働し、流れるように走る。高回転域でのクライマックスは求められていない。

シャシーも同じくらいジェントル。強い上下の入力が加わっても、ボディが緩やかに円を描くようにいなし、落ち着きを乱さない。ダブル・ガラスと厳重な防音処理で外界の音は遮断され、車内はほぼ沈黙状態だ。

507をオマージュしたデザインのZ8

電子制御ダンパーのS EDCのボタンを押せば、ボディは明確に引き締まり、全長5.1m以上ある7シリーズを積極的に操れるようになる。スポーツカーの側面が現れるわけではないが、予想以上にタイトな操縦性と、機敏な身のこなしを味わえる。

とはいえ、立体駐車場をそこまで小気味良くは走れなさそうだ。実際にスタントした7シリーズは、エンブレムを張り直した、軽いV8エンジンを搭載する740iLだったらしい。

BMW 750iL(1995〜2001年/英国仕様)
BMW 750iL(1995〜2001年/英国仕様)

さらに2年後、1999年のワールド・イズ・ノット・イナフに登場したのが、E52型のBMW Z8。BMW M1以来となるパフォーマンス・モデルといえ、アストン マーティンと並ぶ活躍を披露した。

エレガントでグラマラスなボディラインを描き出したのは、デンマーク出身のデザイナー、ヘンリック・フィスカー。後にアストン マーティンでV8ヴァンテージDB9を手掛けることになるのも、何かの運命なのだろう。

BMW Z8は、レトロ・デザインへ注目が集まっていた時代のピークといえる1台。BMWは、当初Z8をZ07コンセプトとして発表した。この名前は1950年代のスポーツカー、507をオマージュしたものだ。

その影響は顕著に表れている。水平方向に長いキドニーグリルとフロントフェンダーのエアベント、クラシカルに短いフロント・オーバーハングと長いボンネットなどは、その好例。シャープに絞られたテール部分も特徴的だと思う。

俳優のジョン・クリーズが、Qのアシスタントとして映画へ登場。ボンドのZ8には、チタン合金のボディにヘッドアップ・ディスプレイを備えると説明している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ベン・バリー

    Ben Barry

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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