【引退後も多忙な日々】ジェンソン・バトン 元F1ドライバーが夢中になれるもの

公開 : 2021.09.26 19:25  更新 : 2021.09.27 17:34

元F1ドライバーのジェンソン・バトンは現在、コーチビルダーのラドフォードで市販車の開発に携わっています。

F1ドライバーの心を揺さぶるもの

執筆:Damien Smith(ダミアン・スミス)
翻訳:Takuya Hayashi(林 汰久也)

ジェンソン・バトンは、そのシルクのように滑らかなドライビングスタイルから、F1時代にはアラン・プロストと比較されていた。

2009年のワールドチャンピオンであるバトンは、米カリフォルニア州の自宅近くにあるコーチビルダー、ラドフォード社の復活に貢献した。ラドフォードはもともと、英国の伝説的なコーチビルダーだった。

ジェンソン・バトン
ジェンソン・バトン

ラドフォードが先日英国でデビューさせたロータス62-2の展示会で、バトンはAUTOCARに対しこう語った。「わたしにとってエキサイティングなことは、ゼロからクルマを開発することです」

「アイルトン・セナはホンダNSXでそれを実現しました。F1ドライバーで市販車の開発にきちんと関わったのは彼だけです」

「クルマやパーツに名前が付けられたドライバーはいたでしょう。しかし、クルマの製造に実際に関わり、情熱を持った人々と一緒に仕事をすることは、とても素晴らしいことです」

ジェンソン・バトンは多忙な男である。モーターレースの最高峰であるF1に18シーズン在籍した後、2017年末にF1を引退してからは、日本のスーパーGT、ル・マン、バハ1000など、様々な経験をしてきた。現在は、自身のエクストリームEチームを運営し、ウィリアムズF1のコンサルタントを務め、F1のグランプリ中継を担当するなど放送業界にも精通している。しかし、彼の心を揺さぶっているのはラドフォードなのだ。

「F1は年に9回、3日間の仕事があります」と語るバトンは、英国に滞在する際には、グローブにあるウィリアムズの拠点を訪れることもある。

「他にもいろいろあります。でも、子供たちとあまり離れたくないので、これ以上F1のことはやりたくないですね。ラドフォードのオフィスは、わたしが住んでいるところから道を下ったところにあり、天気の良い日には45分、悪い時には2時間かかります」

「本当に夢中になれる仕事です。自分がこのプロジェクトの一部であると感じられ、このプロジェクトの行く末に大きな影響をもたらすことができるのです」

車両デザインにも大きな影響力

バトンは、友人であるテレビ司会者のアント・アンステッドを通じてラドフォードの共同設立者となった。2人は、カーデザイナーのマーク・スタッブス、ビジネスや法律面でのブレーンであるロジャー・ベイルとパートナーを組んでいる。

当然のことながら、ジェンソンはテストドライバーとして重要な役割を担っているが、彼が与える影響はそれだけではない。アンステッドは次のように述べている。

ラドフォード・タイプ62-2
ラドフォード・タイプ62-2

「彼は大きな影響力を持っています。ある晩、わたし達はWhatsApp(メッセンジャーアプリ)でグループチャットをしていました。わたし達がクルマの後部をデザインしたところ、彼が写真を送ってきて、『だめだ、もっと低くしてくれ』と言ってきました。翌日、実際に会って話し合った結果、彼の案を採用することにしたんです」

バトンは、「(デザイナーの)マークの良いところは、わたし達の意見を受け入れてくれることです」と語る。「彼が同意するかどうかは別の話ですが……」

62-2のサイドミラーやダックテールのリアウイングなどにはバトンの意見が反映されており、彼はこれが単なる見せかけではないと主張する。

「当初はどちらかというと『ブレッドバン』のようなデザインで、ウイングがないと後部が四角くなりすぎて、ロータス・ヨーロッパのようなスタイルになってしまいました。ダックテールは、ディフューザーと同様にダウンフォースを与えます。このようなクルマには必要なのです」

62-2は、ロータス・エキシージのデザインデータを使用して製作されている。バトンが言うように、1960年代のオリジナルのロータス・タイプ62に敬意を表した、クリーンでモダンなデザインだ。

「マークの最初の図面を見ると、オリジナルカーであるロータス・タイプ62が凝縮されていました。昔のクルマに似ているものを、今の時代に合わせて作るなんて、デザイナーは一体どうやっているんでしょうか」

「このクルマは時代を超越しています。20年前にも使えたでしょうし、見た目の面では20年後にも使えるでしょう。しかし、1960年代のような外観ではありません」

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