サンビーム 3リッター・スーパースポーツ 初代オーナーは地上最速の男 前編

公開 : 2021.11.13 07:05  更新 : 2022.08.08 07:22

地上最速記録に挑んだドライバー、セグレイブが乗った3リッター・スーパースポーツ。当時の栄光を今に伝えるサンビームを、英国編集部がご紹介します。

地上最速記録を狙ったヘンリー・セグレイブ

執筆:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)
撮影:Max Edleston(マックス・エドレストン)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
今の時代、インターネットで検索すれば歴史的な映像や文章に触れることができる。足を伸ばして、歴史的な場所を巡ることもできる。しかし、地上最速記録を残した人物が乗っていたクルマを運転するという機会は、そう簡単に訪れるものではない。

筆者は自動車の歴史作家、シリル・ポストフムス氏が記した「ヘンリー・セグレイブ卿」という本を読んで以来、1920年代の伝説的レーシングドライバーと、彼が駆ったレコードブレーカーに強く惹かれてきた。

サンビーム 3リッター・スーパースポーツ(1926年/英国仕様)
サンビーム 3リッター・スーパースポーツ(1926年/英国仕様)

レーシングドライバーというより、チャレンジャーだったヘンリー・セグレイブ氏。彼は地上最速記録を3度も更新している。しかし、若くして亡くなった彼との結びつきが判明しているクルマは、殆ど残っていない。

そのなかでも、アイボリーとグリーンのツートンカラーが特徴的なサンビーム 3リッター・スーパースポーツは際立つ1台だといえる。通称ツインカムという呼び名が与えられている。

彼自身が所有していた期間は、1年にも満たなかった。陸上移動で200mph、321.8km/hを超えた初めての人間になることを追い求めたセグレイブと一緒に、アメリカへ渡ったクルマだ。

1927年3月29日、横風が吹く中で、彼はブレーキのない車重3tのストリームライナー、サンビーム1000hpを疾走させた。その様子は、今もユーチューブで見ることができる。

大西洋に面したフロリダの砂浜に、約3万人のアメリカ人が参集。高身長の英国人と、排気量45Lというツインエンジン・マシンとの勇敢な挑戦を目撃した。

先進的なドライサンプ・ツインカムエンジン

砂浜に停められた7000台というクルマのなかに、セグレイブが持ち込んだサンビーム・スーパースポーツもあった。今では見事に修復され、機能面も完璧な状態。セグレイブの輝きを、感じ取ることができるようだ。

鮮やかなグリーンに染められたレザーシートへ、助手席側から乗り込む。クルマの右サイドにはシフトレバーとハンドブレーキが付いていて、運転席側にはドアがない。

サンビーム 3リッター・スーパースポーツ(1926年/英国仕様)
サンビーム 3リッター・スーパースポーツ(1926年/英国仕様)

セグレイブがこのサンビームを注文したのは、1926年10月。特別に指定したという白いステアリングホイールを握ると、彼が命をかけて挑んだ記録が自然と頭に浮かんでくる。

1896年に生まれたセグレイブが、初めてクルマを運転したのは1906年。アイルランドのゴールウェーで、父が所有していた単気筒エンジンのローバーだったという。それから21年後、地上最速の男として名を刻んだ。

古いサンビームを運転できること自体が、特別な体験。しかも英国中部、ウルヴァハンプトンに創業したサンビームへ、栄冠を与えたセグレイブがオーナーだった1台だ。これ以上の体験はそうそうないだろう。

技術者のルイス・コータレン氏が手腕を振るったサンビームの中でも、3リッター・スーパースポーツは頂点を飾るフラッグシップ・モデル。独特の長いボディを持ち、スポーツカーではなくグランドツアラーのように見える。

長いボンネットの中には、1920年代のモデルとしては異例といえたユニットが収められている。先進的なドライサンプ・ツインカムを採用する、グランプリ・マシンと同じエンジンだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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