ロータス・エリーゼの生みの親 ジュリアン・トムソンxリチャード・ラックハム 後編

公開 : 2021.12.05 07:06

傑作スポーツのロータス・エリーゼを創造した、デザイナーとエンジニア。英国編集部が2人へ誕生秘話を伺いました。

芸術性を端的に表すペダルボックス

ジュリアン・トムソン氏(以降:JT)「リチャードとエリーゼのデザインに関われたことは、とても良い経験になりました。彼は美しく見せることにも考えが及ぶ、素晴らしい技術者です。ミニマリスト的な構造の必要性を、明確に共有してもいました」

「可能な限りシンプルに、ごまかさない。サイドシルのソフトパッドも、必要だとは思いませんでした。当初はダッシュボードも構造が露出していたんです。最終的にカバーが付きましたが」

ロータス・エリーゼ・シリーズ1を囲んで話す、ジュリアン・トムソン氏(右)とリチャード・ラックハム氏(左)
ロータス・エリーゼ・シリーズ1を囲んで話す、ジュリアン・トムソン氏(右)とリチャード・ラックハム氏(左)

リチャード・ラックハム氏(以降:RR)「ヘッドライトはカウリングが前提で、発表段階では付いていました。111Sでは復活していますが、初期のエリーゼはコストの都合で省かれています」

JT「ペダルボックスの美しさは、彼の芸術性を端的に表している部分でしょう。美しく、機能的。エンジニア出身のアーティスト。とても特別な才能です」

RR「確かにこれまでに関わったプロジェクトでも、エリーゼのペダルは満足度の高い仕事の1つ。ロータスと刻まれていた初期のデザイン案は、踏むのには重すぎました」

「ロータスの技術者は、当時ランドローバーの新しい構造開発にも関わっており、わたしもその1人でした。プロジェクトは中止になりましたが、押出成形の可能性を知るきっかけになっています」

「接着結合がどれほど強固なのかは不明だったので、100mm四方の結合部分は、推測から出した大きさ。実際は、半分のサイズでも充分だったかもしれません」

コストを理由に一部で選ばれたスチール

RR「アルミ材の供給元、ノルウェーのノルスク・ハイドロ社は販売を拡大したいと考えていました。押出成形材で新しいことに取り組んでいるとも、知っていたようですね」

「反面、わたしたちは使用量の削減を模索していました。例えば、ルーノー・スポール・スパイダーのシャシー・ウオールの厚みは、溶接できるようにエリーゼの2倍あります」

JT「常にネイキッド・バージョンの考えはありました。最終的に、340Rでカタチになります。エリーゼは洗練され過ぎている、というケーターハム・オーナーからの要望に応えるために」

RR「押出成形材は、知覚品質の面でも意義があると気づきました。ドアヒンジにも用いています。機能だけでなく、造形として驚きや喜びも与えてくれます。品質も高く、剛性も確保できるので、サスペンションのアップライトにも採用しました」

「スパルタンなクルマとして、ピッタリですよね。リアのサブフレーブもアルミ材にしたかったのですが、エンジンの熱による影響を防ぐには重量が増え、コストも高くなる。そこで、適した素材としてスチールを選んでいます」

「シャシーのサスペンションマウント部分にも、スチール製のボビンが使われています。鉄とルミが接することで起きるガルバニック腐食が心配で、アルマイト素材を選びたかったのですが、コストが許しませんでした」

「サイドシルは100mm低くしています。車重は6kgから7kgほど増えていますが、乗降性を考えれば、その価値はありましたね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    アラステア・クレメンツ

    Alastair Clements

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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