フィアット128xフォルクスワーゲン・ゴルフMk8 元祖と定番の前輪駆動 前編

公開 : 2021.11.27 09:45

現代的なFFレイアウトの元祖といえば、フィアット128。最新FFハッチバックのゴルフと英国編集部が乗り比べしました。

VWの本社で分解されたフィアット128

執筆:Simon Hucknall(サイモン・ハックナル)
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
最近、英国の郊外でもフィアット128を目にする機会は殆どない。恐らく21世紀に入ってからは見かけていない。運輸省によれば、英国でナンバー登録されている128は4台しかないというから、当然かも知れない。

すっかり過去のクルマとなった四角いフィアットだが、シンプルなボディの内側には現代のモデルへ通じる技術が潜んでいる。今のフィアット500フォルクスワーゲン・ゴルフとも、深い関わりがある。

レッドのフィアット128 1300CLとイエローのフォルクスワーゲン・ゴルフ 1.4 TSI eハイブリッド・スタイル
レッドのフィアット128 1300CLとイエローのフォルクスワーゲン・ゴルフ 1.4 TSI eハイブリッド・スタイル

それは、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)という構成。50年の時間を挟んで、駆動系のレイアウトで共通する2台が、どれほど違い、似ているのか。元祖FFのフィアット128と、現代のFFハッチバックの定番、ゴルフを比較してみることにした。

フィアット128が発売されたのは、1969年。1970年には欧州カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。同じ頃、フォルクスワーゲンはタイプI、初代ビートルのモデルチェンジに迫られ、次期モデルへFFレイアウトを与える決定をした。

スタイリングを任されたのは、デザイナーのジョルジェット・ジウジアーロ氏。フォルクスワーゲンの本社があるドイツ・ヴォルフスブルクを訪ねると、研究開発部門には分解されたフィアット128が置いてあったという。

すべてのコンポーネントにラベルが貼られ、番号が振られていたそうだ。なぜ、簡素なスタイリングのイタリア車に、フォルクスワーゲンの技術者は強い関心を寄せたのか。一見すると、画期的な技術とは無縁に思える。

現代的なFF構造を初めて採用したモデル

その理由は、量産車として現代的なFF構造を初めて搭載したモデルだったから。コンパクトなシャシーに、新しいドライブトレインが巧みに組み合わされていた。運転が楽しいだけでなく、車内空間も広く取ることができていた。

実際、全長3.8m、全幅1.6mほどの小さいボディながら、同時期では128ほど空間効率に優れたモデルは存在しない。クルマの面積のうち、約80%が乗員と荷室の空間に充てられていた。それこそ、FFレイアウトのおかげだ。

レッドのフィアット128 1300CLとイエローのフォルクスワーゲン・ゴルフ 1.4 TSI eハイブリッド・スタイル
レッドのフィアット128 1300CLとイエローのフォルクスワーゲン・ゴルフ 1.4 TSI eハイブリッド・スタイル

量産メーカーとしてFFレイアウトを導入し、高い費用対効果を得られる仕組みが、フィアット128には備わっていたのだ。

10年前に登場していたBMCミニもFFだが、基本的な構造が異なる。トランスミッションがエンジンの下ではなく、横につながっていた点がポイントだった。潤滑性に優れ、最高出力や耐久性、変速の質感など、多くのメリットが存在していた。

このレイアウトは、パワーの伝達効率にも優れていた。初期の128のエンジンは55psを発揮したが、51psがフロントタイヤへ伝わっていたという。クラッチ交換もしやすい。

フロントグリルの直後にラジエターを搭載し、電動ファンを採用していたことも、ミニとは異なる。短時間にエンジンが温まり、ノイズも減らし、優れた冷却性能も得ていた。

フィアットの伝説的なエンジニアで、128の生みの親といえるのが、ダンテ・ジアコーサ氏。現代へ通じるパワートレインのレイアウトを実現するため、更に多くの先見的な技術開発も成し遂げている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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