なぜ「冷却技術」がEV開発の鍵を握るのか 石油会社が着目したビジネスチャンスとは
公開 : 2021.12.15 07:05
石油会社のペトロナスは、EV専用フルードの開発に着手。充電能力が向上し、航続距離も伸ばせるとのことです。
石油会社が活路を見出す 充電時間の短縮も
EVは、さまざまな意味で世界をひっくり返した。テクノロジーの変化、生産方法の変化、運転スタイルの変化、燃料補給の変化、タイヤのデザインの変化など、思いつく限りの変化があった。水面下ではさらなる変化が起こっており、その1つがエンジンやモーター、ドライブラインを支える流体の設計だ。
従来のクルマでは、水とグリコールの混合液(不凍液)がエンジンを冷却する一方で、用途に合わせて調合されたオイルがエンジン、アクスル、トランスミッションを潤滑し、場合によっては冷却の役割も果たしている。
しかし、EVの場合は違う。燃焼を伴わないEVでは燃焼生成物がなく、また燃焼室のような極端に高温になる場所もない。しかし、トランスミッションには潤滑油が必要だし、モーターには冷却が必要で、バッテリーやパワーエレクトロニクスも同様である。
実際には、単なる冷却や保護だけではなく、最大限の効率を引き出すために、きめ細かな熱管理が必要だ。ICE(内燃機関)が衰退していく中で、石油会社はビジネスの源泉としてこの分野に注目している。
ペトロナス・ルブリカンツ・インターナショナル社は、EV専用のフルード(流体)を開発している企業の1つ。同社はEV専用の潤滑剤と冷却剤を使用するだけで、効率が向上し、その結果、航続距離も伸びると考えている。そして、熱対策は間接冷却から直接冷却へと移行している。
間接冷却では、ヒートシンク(通常は合金製の板)が機械やインバーター、バッテリーセルから熱を吸い上げ、冷却水に熱を移す。しかし、これでは熱の一部だけが伝導され、残りの熱は逃げてしまうため、効率が悪い。
直接冷却の場合、冷却液は回路基板やシール、銅やプラスチックなどの部品に直接触れることになり、大規模なショートを起こさないようにするには、冷却液に誘電性(電気を通さないこと)が必要となる。ドライブトレインが別体ではなく一体化していると、話はさらに複雑になる。その場合、冷却液はギアの潤滑と、モーターとその電子機器を直接冷却する必要がある。
バッテリーや充電装置の冷却を改善すれば、超急速充電はさらに高速化できる。350kWの充電が可能なモデル(例えば、ポルシェ・タイカンなど)の充電速度は、早い段階でピークに達した後、損傷を防ぐためにバッテリー管理システムが電流を制御するため、徐々に低下していく。
ペトロナスによると、タイカンでは空の状態からの充電時間が41分とされているが、仮に100%まで350kWで充電できたとすると、かかる時間は16分になるという。必ずしも実現できるとは言えないが、冷却とそのための流体に焦点を当てることで、充電時間を改善する大きな可能性が示されている。これからの10年は、化学者にとって多忙な時期になりそうだ。