ランボルギーニ・ムルシエラゴ、フェラーリ575 M、アストン マーティン・ヴァンキッシュ V12気筒乗り比べ 中編
公開 : 2022.01.22 07:06 更新 : 2022.01.22 19:49
スーパーカーの極めつきといえるV型12気筒。内燃エンジンに未来を感じた時代の3台を、英国編集部が試乗しました。
豪奢で洗練されたグランドツアラー
ガンメタリックのアストン マーティン・ヴァンキッシュ Sは、ランボルギーニ・ムルシエラゴほど自在にV型12気筒のパワーを展開できない。そのかわり、洗練性と豪奢さではワンランク上だ。
つづら折りの道をスリリングに駆け抜けられる。だが、オプションで選べた+2のリアシートを装備せずとも、遠く離れた実家を目指すようなグランドツアラーだといえる。
アストン マーティンは、ヴァンキッシュの開発時期に親会社が変更。フォードに買収され、高級ブランドを握るプレミア・オートモーティブ・グループの傘下となった。
ヴァンキッシュは、英国中部、ニューポート・パグネルで生産された最後のアストン マーティンでもある。デザインのベースはDB7で、手掛けたのはイアン・カラム氏。肉体美ともいえる造形は、高温で溶けた金属のような滑らかさも湛える。
テール周りのふくよかさは、1990年代のヴァンテージとも重なる。1950年代から1960年代のブランド黄金期にも劣らない、タイムレスな美貌すらある。映画007ダイ・アナザー・デイのボンドカーとしての活躍を、ご記憶の読者もいらっしゃるだろう。
ドライビングポジションは、ランボルギーニより一般的。玉座のごとく快適なレザーシートが、ドライバーを優しく包む。センターコンソールやスイッチ類に、フォード車での既視感を持つ。
ロータスとともに開発した、アルミニウムの押出成形材とカーボンファイバー製バックボーンを採用する、新しいシャシーも特長。その後のブランドを支える、VHプラットフォームの前身となった。
フォード製V6がベースの5.9L V12
フォードの一般的なV型6気筒デュラテック・ユニットがベースだったとはいえ、アストン マーティンの5.9L V型12気筒は素晴らしい。雷鳴のような、湿り気のある低音の迫力がたまらない。回転域の上昇とともに、洗練されたトーンへ変化する。
車重1875kgのヴァンキッシュを、低回転域から鋭く加速させる。スーパーカーに相応しい、たくましさがほとばしる。
カー・アイコニクス社にお持ちいただいたヴァンキッシュは、より速いS。最高出力527ps/7000rpm、最大トルク58.7kg-m/5800rpmを発揮する。ノーマルでは466psだった。
シリンダーヘッドは、吸気ポートや燃焼室の形状が異なる専用品。強化コンロッドで高圧縮比を与え、インジェクターも新しい。ECUもマッピングし直されている。パフォーマンスは、フェラーリに迫る。
近年ではデュアルクラッチかトルクコンバーター式のATが一般化しているが、21世紀が始まった頃は、高性能モデルへのオートメーテッドMTの採用が人気だった。クラッチ操作を、油圧などで自動的にまかなうユニットだ。
フェラーリやランボルギーニでもオートメーテッドMTが提供されており、アストン マーティンも新しい技術開発に取り組んだ。だが、あまり評判は良くなかった。
そのため、同ブランドのヒストリックカーを専門とするアストン マーティン・ワークス社では、MTへのコンバージョンを実施している。英国での費用は、2万1000ポンド(約319万円)を超えるものの、望ましいアップグレードといえる。