ベントレー4 1/4リッター・ヴァンデンプラ・スポーツツアラー 金色のビンテージ 前編
公開 : 2022.01.29 07:05
綺羅びやかなゴールドに塗られた、ベントレー4 1/4リッター・スポーツツアラー。英国編集部が、貴重な1台をご紹介します。
個性的なスタイリングに映えるゴールド
眩しいゴールドに塗られたクルマは、好き嫌いが分かれるものだ。多くの人は、乗るには派手過ぎると考えるだろう。クラシック・フェラーリやランボルギーニなら、魅惑的な雰囲気に惹かれるかもしれない。
ベントレーだったら、過剰なほどの存在感に圧倒されそうだ。ヴェルサーチェやロレックスを身につけたオーナーを想像してしまう。だが今回ご紹介する4 1/4リッターは、少々趣が異なる。
上品な輝きのハニーサックルと呼ばれるボディーカラーは、1939年に英国人ファッションデザイナーによって選ばれた。由緒正しい歴史を持った、ベントレーのスポーツツアラーだ。
シャシーはB154MRで、オドメーターのカウンターは80年ほどの間に数周回っている。幾人かの著名なエンスージァストによって、大切に距離を重ねてきた結果といえる。
西洋スイカズラを意味するハニーサックルが映えるのは、晩秋が1番だと思う。朝霧が掛かるような冷えた日でも、イチョウの葉のように美しく陽光を反射する。
ヴァンヴァーレン社やヴェスターズ&ネイリンク社など、少なくないコーチビルダーがベントレーのシャシーへ壮観なボディを載せてきた。だが、多くに影響を与えたヴァンデンプラ・スポーツツアラーが、筆者は最も望ましい容姿だと考える。
低いフロントガラスに折りたたみ式のソフトトップを備え、リアバンパーが後ろへ伸ばされている。ボディカラーと相まって、スタイリングを一層個性的なものにしている。
オーバードライブ付きは6台のみ
このベントレーがロンドン市民の前に姿を表したのは、第二次世界大戦が始まる直前だった。暗く沈んだ夜を明るく照らす5灯のヘッドライトと、滑らかにささやく直列6気筒エンジンの力強い走り。不穏な空気に包まれていた人々を、驚かせたに違いない。
この頃のベントレーは、英国中部にあったロールス・ロイスのダービー工場で製造されていたことから、ダービー・ベントレーとも呼ばれている。あるいは、ロールス・ベントレーとも。
この例はビンテージといえる後期モデルで、排気量は4257cc、4 1/4へ増やされている。トランスミッションやステアリングラックも、改良版が組んである。
オプションとして理想的な、高速巡航用のオーバードライブ・ギアが選ばれたMRかMXシャシーのヴァンデンプラ・ツアラーは、僅か6台しか作られなかった。発表は1938年のロンドン・モーターショーで、1430ポンドの値段で販売された。
フライングBと呼ばれるマスコットが、ラジエターグリルの頂点で羽ばたく。3スポークのステアリングホイールを握ると、戦前の空気感がよみがえるようだ。
素晴らしく手入れの行き届いたダービー・ベントレーは、1930年代のツアラーとして相応しい洗練度を備えている。操縦系にはブランドの創業者、ウォルター・オーウェン(W.O.)・ベントレー氏も好んだという、ロールス・ロイス品質が与えられている。
ステアリングホイールは至って滑らか。ドライバーの右側から伸びる、シフトレバーの動きも心地良い。