アウトウニオンにサーブ、ネッカー、ランチア 1960年代の小さなファミリーカー 中編
公開 : 2022.02.13 07:06
約60年前に作られたコンパクト・ファミリーカー。コレクターが集めた個性的な4台を、英国編集部がご紹介します。
V型4気筒エンジンを搭載するアッピア
コレクターのフレドリク・フォルクスタッド氏にお持ちいただいた最後の1台は、ペールブルーのランチア・アッピア。リア・サスペンションにスライディングピラー式を継承した、最後のランチアだ。
1953年の発売から1963年までの間に、9万8000台が製造されている。ザガートやピニンファリーナが手掛けた2ドアモデルは含まないから、ランチアとしてはかなりの多売だったといえる。
アッピアは、アルデーアの後継モデルとして、V6エンジンのアウレリアと並行して売られた。ブランドの経営を、多少立て直したことは間違いないだろう。優れた技術に小型ながら上品な雰囲気を併せ持ち、フィアット1100と良好に渡り合った。
エンジンは1090ccの4ストロークV型4気筒。観音開きドアのセンターピラー・レス構造を備えたボディも特徴で、シリーズ3まで改良が重ねられている。当初38psだった最高出力は、晩年には48psへパワーアップを果たしていた。
1956年のシリーズ2では、改良を受けた3ボックスボディと14インチのホイールを獲得。今回のシリーズ3では、ボディのシルエットは同じながら、フラミニア風の縦に長いフロントグリルが与えられている。当時のランチア・ファミリーらしい見た目だ。
シリーズ3単体での生産台数は5万5000台に達し、3世代のアッピアで最も高い人気を誇った。2系統のブレーキなども備え、技術的にも進んでいた。
生産国の個性が明確なスタイリング
4台揃った1960年前後のコンパクト・ファミリーカーだが、2台のイタリア車は近似して見えるかもしれない。アッピアもネッカー・ヨーロッパも、1950年代のローマの街並みを想起させる、チャーミングなスタイリングが与えられている。
一方で、球根のようにずんぐりと丸いアウトウニオン1000 Sは、ビートルが幅を利かせていた時代のドイツ車的。反面、その頃のデザイン的な感覚にとらわれていないのが、サーブ96。空力特性も配慮されており、必要以上の装飾もない機能美がある。
車内を観察して気付くのは、どれもがコラムシフトだということ。その頃に流行ったシフト・レイアウトだった。その構造を活かし、ランチアはフロント側にもベンチシートが用意され、広く見える。
サーブの白く大きいステアリングホイールは、左側にオフセットしている。ダッシュボードには丸いメーターが並び、ペダルは吊り下げ式。残りの3台は、フロアヒンジ・タイプだ。アッピアのインテリアはどこか禁欲的。後部席は、足もとの空間が広い。
アウトウニオンは全幅1694mmと、一番幅が広いものの、パッケージングでは及ばない。フェイクウッドのダッシュボードへ、温度計のように縦に長いスピードメータが据えられている。ステアリングホイールは卵型だ。
シートは肉厚で、車内空間にはあまり余裕がない。ドアを開くと、大きく湾曲したフロントガラスが出っ張り、乗降時に膝をぶつけそうになる。リアシートも正直狭い。