R35GT−R再発見 15年を生き続けるゴジラ 高まり続けた性能と価格 まだまだ現役を張れる実力

公開 : 2022.03.05 20:25

2007年に登場し、いまだ現行車種の日産GT−R。もはや時代遅れではないかと思いつつ久々に試乗したニスモ仕様の走りは、かつて抱いた懐疑心さえ吹き飛ばしました。万人受けするとはいえませんが、その実力は侮れません。

15年目の『ゴジラ』

日本国外では、よくゴジラにたとえられる日産GT−R。それは巨大で、恐ろしげで、モーレツなクルマだから。けれども今では、もうひとつ理由が増えている。R35型は、映画の中の怪物のようにすっかり古ぼけたからだ。なにしろ、登場から今年で15年も経つのだ。モデルライフとしてはきわめて長い。

デビューは2007年の東京モーターショーだった。そのときから数えて、英国の首相の座には4人が就いた。この年の半ばに代わったぶんも含めれば5人だ。もしかしたらR35が新車で買えるうちに、もう一回くらい交代劇があるかもしれない。

2013年に14年モデルとして登場したGT−Rニスモ。17年モデルではダンパーのチューンを変更。20年モデルでは外観を刷新し、カーボンセラミックブレーキやGT3タービンを採用した。
2013年に14年モデルとして登場したGT−Rニスモ。17年モデルではダンパーのチューンを変更。20年モデルでは外観を刷新し、カーボンセラミックブレーキやGT3タービンを採用した。    MAX EDLESTON

F1だと、R35登場年のチャンピオンはフェラーリに乗るキミ・ライコネンだった。iPhoneが発売されたのも、ハッシュタグやツイープなどという新語が生まれたのも、世界金融危機が起こったのもこの年だ。どれもずいぶん前のことに感じられる。

そもそも、主要自動車メーカーの新車で買えるモデルに、R35と同期のものがあるだろうか。改良を重ねながら15年も売られているのは、フィアット500くらいしか思いつかない。

もちろん、この長い年月の間にGT−Rは数多くの改良を受けてきた。しかし、2013年にニスモ仕様が追加されて以来、それ以上に目立つ変更は行われていない。600psのVR38DETTは、今もニスモのノーズにそのまま積まれている。

911ターボSより高い価格

筆者は、このクルマの起源を考慮するに、こう思わずにいられない。これは、チーフエンジニアを務めた水野和敏氏に、日産を離れようと決意させたクルマだろうと。水野氏は、彼の作り出すクルマは無駄を省いたほうがいい類のものだと長年にわたり声高に主張してきたという。ところがGT−Rニスモは、その原則と真っ向からぶつかるクルマだ。自身の信念に対し、聞く耳を持たなくなった会社を、彼は去ることにしたのだと、筆者はみている。そうして、水野氏の退社と入れ替わるようにして世に出たのが、GT−Rニスモだった。

そのニスモ、クルマ自体は発売当時から大きく変わっていないにもかかわらず、価格は大幅に上昇した。2015年初頭のオートカーを見ると、およそ12万5000ポンド(約1938万円)ほどの金額がプライスリストに記されている。これは、GT−Rの標準モデルより5万ポンド(約775万円)ほど高い。70psの馬力差に対して、この差額が妥当か否かは、この際、論じないでおこう。

R35のスタイリングは、リアウイングや各部に穿たれたスリットなど、2000年代に多く見られたJDMなどと呼ばれる日本車ベースのチューニングカーを思わせるものだ。
R35のスタイリングは、リアウイングや各部に穿たれたスリットなど、2000年代に多く見られたJDMなどと呼ばれる日本車ベースのチューニングカーを思わせるものだ。    MAX EDLESTON

現在、ニスモ仕様の価格は18万95ポンド(約2791万円)だ。物価上昇や原材料費高騰もあるが、日産がニスモを、プレミア価格をつける位置付けのブランドとして確立したがゆえに、このプライスとなったのだろう。標準モデルは、これよりほぼ10万ポンド(約1550万円)は安く買えるのだから。

いずれにせよ、GT−Rがカリスマ的な人気を見せるモデルであることに異論はない。しかし、その人気が販売実績に結びついているとは言い難い。欧州では、本格販売が開始された2009年に2000台ほどがオーナーの元へ嫁いだが、昨年は389台だった。パンデミックや半導体不足の影響も否定できないが、大幅な減少だ。台数を稼ぐようなクルマではないので、GT−Rニスモは最上位モデルにふさわしい値付けをできた、と見ることもできるが。

それでもこの価格は、992型のポルシェ911GT3より5万ポンドほど高い。最新の911ターボSにいたっては、実用面で大差なく、馬力では上回るにもかかわらず、1万5000ポンド(約233万円)は安い。マクラーレンの最新モデルであるアルトゥーラに近いプライスだ。つまり、これだけの大枚をはたいても、手に入るのは現代最高のスペックではない。それでもこのクルマを選びたくなる理由はどこにあるのか、それを探ってみようというのが今回の趣旨だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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