大企業に挑む野心的起業家 ヘンリック・フィスカー EVに見出した「勝機」とは

公開 : 2022.04.09 06:25

新興EVメーカーのCEOを務めるヘンリック・フィスカー。新型EV「オーシャン」にかける思いを聴きました。

超短期間で新型車を開発する秘訣とは

ヘンリック・フィスカーが考えるまともなホテルの朝食とは、大きな皿に目玉焼きが3つ、サニーサイドアップで載っているものだという。筆者は、パークレーンホテルで彼に会ったときにそう教えてもらった。

米国のEVメーカー、フィスカー社の創業者である彼は、グラーツにある製造パートナー、マグナ・シュタイヤーが完成させたばかりの47台の新型SUV「オーシャン」のプロトタイプを検証するために、オーストリア行の飛行機に飛び乗る直前だった。彼はその直後、オーシャンが欧州デビューを飾るスペインのバルセロナに向かっている。

ヘンリック・フィスカー氏
ヘンリック・フィスカー氏    AUTOCAR

わたし達が一緒にいた時間は短かったが、驚いたのは、食事と会話の効率の良さだった。それは、年内に欧州の5つの国と米国で、3万5000ポンド(約570万円)の電動SUVを成功させると信じている理念、「スピード・トゥ・マーケット(市場投入までのスピード)」の好例と思われた。

オーシャンは猛烈な勢いで市販化に至ったが、フィスカー社の物語の終わりにはほど遠い。同社は2025年末までに4台の新型EVを発売しようとしているが、それは彼が「ソーセージ」と呼ぶような、互いによく似たモデルではなく、モデル・マトリックスの異なる部分を狙った個性的なモデルとされている。

オーシャンはその先駆者である。通信技術の進歩の速さに対して、自動車のデジタル技術の導入はタイムラグがあるため、これを最小限にするためにわずか2年余りで開発・生産開始された。

「自動車業界は50年前から、自動車の開発には4年半かかると決めていたようなものです」と、フィスカーは言う。

「そんな間隔では、新型車の車載技術は、生産開始の3~4年前に決まってしまう。これは、若い購買層には耐えられないことです。かつてのように、自動車は技術の旗手であると感じてもらえるようにすることが目標です。成功するためには、そうしなければなりません」

フィスカーいわく、時間を節約するには、時間を厳密に配分することだという。設計開発の重要な段階において、従来の企業なら6か月も9か月も「こねくり回す」ようなところ、フォスカー社では設計を固め、製作に取り掛かる。オーシャンの場合、フィスカーが設計責任者であると同時に、自身の名を冠した会社のCEOでもあるため、派閥争いが起きないことも大きな要因だろう。

低価格でありながら高性能? オーシャンの「魅力」

このアイデアがマグナ・シュタイヤーから早期に支持されたのは喜ばしいことだ。同社はメルセデス・ベンツBMWジャガーアストン マーティンなどの高級車ブランドを顧客に持ち、世界で最も効率的な自動車製造請負業者として有名である。

また、カリフォルニアにいる400人強のエンジニアグループを通じて、フィスカー社がデザインやソフトウェア開発など重要な要素を完全にコントロールし、責任を負っていることも一助となっている。

フィスカー・オーシャン
フィスカー・オーシャン

当初の計画では、オーシャンを年間約5万台生産する予定だが、フィスカーは需要が増加すれば最大15万台に拡大し、世界中に販売する能力を持つことになると確信している。

フィスカーは、オーシャンの売りは「先進的なデザイン」と「持続可能性」という2つの要素にあると考えている。自身がプロポーションを手掛けたというオーシャンの外観は、欧米では悪くない評価を得ている。

さらに、マグナ・シュタイヤーの製造工場で最近カーボン・ニュートラル化が進んでいること、オーシャンの内装に再生素材が多用されていることを、完全持続可能性への前進の証として挙げている。

オーシャンにこれほどまでの自信を抱いているのは何故なのだろうか?それを尋ねると、サプライヤーからも同じ質問を受けたと返ってきた。自信の根拠は価格であり、3万5000ポンド(約570万円)以下で「格好良くて、エキサイティング」なEVはほとんどないからだ、と彼は言う。

ほかにも4点を特徴として挙げている。航続距離はこのクラスのEVとしては非常に長いこと(最大約630km)、珍しい回転式の17.1インチ中央タッチスクリーンの採用、すべての窓とサンルーフを一度に開けられるカリフォルニア・モード、そして他のEVのように「ファンなど」に電力を供給するのでなく高電圧バッテリーシステムを充電するよう構成されたソーラーパネルである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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