シミュレーションでEV航続距離を伸ばす方法 運転スタイルも考慮した設計・開発
公開 : 2022.04.10 06:05
自動車開発でシミュレーションの活用が進んでいます。EV航続距離を伸ばすためにも重要な役割を担います。
ハード/ソフト両面で活用進む
シミュレーターを使用して仮想環境で自動車を開発することは、今に始まったことではないが、EVの設計・開発において、シミュレーション技術は新しい役割を与えられようとしている。
EVを購入する際に最も考慮すべき事項の1つは「航続距離」である。購入者がICE車より多くの資金を充てる場合、EVから得られる能力が低くても構わないと考えるのは、かなり無理がある。しかし、航続距離はハードウェアとソフトウェアだけの問題ではない。異なる運転スタイルに適応し、ドライバーが制御できる回生ブレーキや惰性走行など、EV特有の機能を最大限に活用することも重要だ。
EVメーカーにとって課題となっているのは、ドライバーの能力やスタイルの違い、そして航続距離に配慮した運転をすることがドライバーにとって負担になるか、そもそも可能なのかどうかということだ。そこでメーカーは、できるだけ多くの運転シナリオを想定する必要があり、そのための最も手っ取り早い解決法がシミュレーターの活用なのだ。
現在、リアルタイム・シミュレーターで主に使用されているのは、DIL(ドライバー・イン・ループ)とHIL(ハードウェア・イン・ループ)の2つの機能だ。DILは単純に言うと「ドライビングシミュレーター」という意味だが、単に画面とコントローラーがあるだけではない。実際の車両に搭載される部品と同じように動き、動作するため、運転するエンジニアは個々の部品の反応を正確に感じ取り、データを収集することができるのだ。HILには、ブレーキシステムなど、物理的なテストが必要な実際のハードウェアも含まれる。
シミュレーターメーカーのアンシブル・モーション(Ansible Motion)社は、EVのバッテリー、モーター、インバーターをHILに接続することで、プロトタイプ製作前の早い段階から、ペダルの感度や回生ブレーキの効き具合などが航続距離にどう影響するかを把握できると考えている。
エコ、ノーマル、スポーツなど、さまざまな走行モードを、「走り」を損なわないように設定するためにはコツがあるという。例えば、エコモードが遅すぎたり、長時間使っていて不快に感じたりした場合、ドライバーはエコモードを使わなくなり、結果的に航続距離が短くなる可能性がある。
また、パドル操作による減速時のエネルギー回生など、手動で行う機能についても、ドライバーが最適な選択をしない可能性がある。例えば、回生ブレーキやワンペダルドライブの多用は、交通量の多い場所ではベストかもしれないが、高速道路では惰性走行の方が適しているのかもしれない。
また、バーチャルシャシーの挙動をリアルタイムにシミュレーションすることで、低重心であるEVの特徴に特化したカスタマイズも可能だ。設計はどれほど洗練させるべきか、シンプルな設計でも十分機能するか、バッテリースペースを最大限に確保できるアプローチとは?
アンシブル社のDILシミュレーターは、フォード・マスタング・マッハEの開発に使用され、初期の設計は「マスタングではない」と判断されて修正につながったという。
現実世界の未来は、日に日に仮想世界に依存するようになってきているようだ。