兄弟エンジンの軽量スポーツ RRのアルピーヌA310 x MRのロータス・ヨーロッパ 前編
公開 : 2022.05.08 07:05
同時期に誕生した英仏のライトウェイト・スポーツ。ルノー由来のエンジンを搭載した2台を、英国編集部が振り返ります。
手頃な価格のミドシップという理想
ロータス・ヨーロッパから降りるのは難しい。サイドシルとルーフを掴みながら、思い切り前かがみになって足を出すしかない。サービスエリアの駐車場などでは、注意が必要。遠くで誰かが眺めていたりする。
乗り込む場合は、先にお尻をシートに乗せてから、足を曲げて引き込めば大丈夫。それでも、殆どの場合はつま先がドアに当たってしまう。
ロータス・ヨーロッパほど、走る魅力に対して妥協のないデザインが与えられた、公道用モデルは少ないだろう。乗降性の悪さにも、目をつぶりたいと思わせる。何しろ、全高は1098mmしかない。
もしそれが、127psを発揮するビッグバルブ・ツインカム・エンジンと、ルノー16 TXやルノー12 ゴルディーニと同じ5速MTが組まれたスペシャルなら、尚のこと。
ロータスを創業したコーリン・チャップマンが、ヨーロッパを発売したのは1966年。セブンの後継モデルとして、ルノー16用のパワートレインを流用し、たった18か月という短期間で開発された。
その名のとおり欧州市場での販売が前提で、1957年のエリート以来、最も意欲的な公道用モデルといえた。手頃な価格のミドシップ・スポーツカーという彼が抱いた理想へ、完全には一致していなかったかもしれないけれど。
新しいノーフォーク工場の稼働率を高めながら価格を抑えるという、難しい課題にも取り組んでいた。実際、生産効率を上げつつコスト削減へつなげる、多くの工夫が凝らされている。
約700kgのボディに79psのエンジン
初期型のシートは、前後スライドできない固定式。ペダルの位置を、スパナで調整することで対応した。左右ドアのガラスは開けることができず、ダッシュボードは簡素なアルミニウム製だった。
フロント・サスペンションは、トライアンフのものを由来とした、エランからの流用。ステアリング系も同じ。リア・サスペンションは、トランスバースリンクにラジアスアームという構成が採用された。
Yの形状をしたスチール製バックボーン・シャシーという基本的な車両構造も、エランに通じるものだった。初期のヨーロッパでは剛性確保のため、バックボーン・シャシーがFRP製ボディへ接着されている。
ジョン・フレイリング氏によるカムテールのスタイリングは、当時の公道用モデルとして最高水準の空力特性を実現。Cd値は0.29だった。ボディの前後を守ったバンパーは、フロントがフォード・アングリア用で、リアがフォード・コルティナ用だ。
車重は約700kgと、MGミジェットより約90kgも軽量だった。オールアルミ製のルノー・エンジンは、軽くチューニングされ最高出力79psを発揮。177km/h以上の最高速度と、0-97km/h加速10秒以下という、俊足を獲得した。
一方、フラットなボディの後方視界は悪く、路面に近いドアは歩道の縁石に当たることも少なくなかった。換気は良くなく、渋滞に巻き込まれると車内へ排気ガスが流れ込んだ。走行時に主眼が置かれたボディ内の圧力差が、裏目に出た。
実用性や俊敏さで、エランには届いていなかった。完成度への批判はゼロではなかった。