「理想」のEV用バッテリー 世界中が追い求める低価格・大容量の環境に優しい技術とは

公開 : 2022.04.20 06:05

開発競争がさかんに行われるEV用バッテリー。難しい課題を乗り越え実用化を目指す、未来の技術を探ります。

答えは1つじゃない 多様な電池技術

当然のことかもしれないが、世界的なEVブームにより、バッテリーの開発が盛んに行われている。

既存のリチウムイオンバッテリーの改良(液体電解質を使わない全固体電池など)はもちろんのこと、より多様な素材を使ったバッテリーの実現に向けた取り組みが行われている。その多くはまだ研究段階であり、過去さまざまな試みが具体的な成果に結びつかなかったのも事実だが、今の世界情勢が意欲的にも資金的にも開発を後押ししているのは確かだ。

国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに世界で2億4500万台のEVが普及すると予測している。そのすべてがバッテリーを必要としているのだ。
国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに世界で2億4500万台のEVが普及すると予測している。そのすべてがバッテリーを必要としているのだ。

画期的なアイデアの1つが、従来のリチウムイオンバッテリーと水素燃料電池の中間的な存在である「リチウム空気電池」である。リチウム空気電池の研究を始めたのは、化学者のピーター・ブルース教授だ。ブルース教授は、2007年から2011年までの4年間、スコットランドのセント・アンドリュース大学で、リチウム空気電池を1基試作することに成功した。

リチウム空気電池は、充電時の化学反応に空気中の酸素を利用するため、電池内に化学物質を加える必要がない。効率性の悪さや寿命(劣化するまでの充放電回数)の短さといった課題の克服は困難を極めるが、世界中の科学者がこの問題に取り組んでおり、昨年末には日本の物質・材料研究機構(NIMS)が、エネルギー密度500Wh/kgのリチウム空気電池を開発したと発表している。これは、リチウムイオンバッテリーのおよそ2倍の容量である。ただし、電池の寿命については言及されていない。

イリノイ工科大学は昨年、試作品の電池で1200回の充放電を実現し、寿命の問題を克服することに成功したと発表している。寿命が短くなる原因は、空気中の炭素、窒素、水などの元素がリチウムと反応して汚染層を作り、酸素との反応を阻害するためである。イリノイ工科大学の研究チームは、不純物を吸収する電解質を開発し、この現象を防いだという。

このほかにも、さまざまな技術が開発されている。ドイツのスタートアップ企業であるTheion社は、電池製造の経験豊富なウルリッヒ・エメスCEOの下、「リチウム硫黄正極技術」を開発し、従来のリチウムイオンバッテリーの3倍の航続距離を可能にしたと主張している。硫黄は豊富な元素であり、同社の技術ではニッケルとコバルトの代替として使われている。コバルトの使用については、鉱物の採掘から発生する廃棄物が環境に与える影響や、それに伴う人的被害の問題から、論議を呼んでいる。

Theion社は、この硫黄ベースの電池技術では調達コストが99%安くなるほか、90%少ないエネルギーでセルを製造できるとしている。また、硫黄が天然に結晶として存在することに着目し、「クリスタル電池」と呼ぶ正極の製造手法について16件の特許を出願中であるという。Theion社は、今年中に航空宇宙産業の顧客向けに試験用電池を製造・供給する予定である。2024年には自動車用、2025年にはギガファクトリー規模の生産が見込まれている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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