名機4A-GEに軽いFRシャシー 若者も吸い寄せるAE86 トヨタ・カローラ・レビン 前編
公開 : 2022.05.14 07:05 更新 : 2022.08.08 07:11
英国でもネオクラシックとして支持を集める、AE86型のレビン。英国編集部が、夜の街でその魅力に迫りました。
ほかのクルマが欲しくなくなるエンジン音
静まり返った真夜中に、冷えたエンジンを目覚めさせる。隣の住人へ申し訳ないと思いつつ、シートポジションを確認し、そっと住宅街を後にする。思わず気持ちが高揚する。
こんな瞬間、いつも筆者は英国で展開されていたフォルクスワーゲン・ゴルフの広告を思い出す。俳優のリチャード・バートン氏が、4代目ゴルフのステアリングホイールを握っていたものだ。不穏な音楽に包まれながら。
ロンドンのような場所は、深夜でも街が眠ることはない。街灯の下では、若者たちが朝を迎えるのを惜しむように、他愛のない話を続けている。ガラガラの深夜バスが、するりと通りを抜けていく。
とはいえ、都心を運転するなら夜が1番。鮮やかなネオンで照らされ、商用車やタクシーも少ない。
ほんのり温かい夜にピッタリなクルマと、今晩は一緒だ。5速MTを2速へ落とし、アクセルペダルを煽る。明かりの消えたオフィス街に、ツインカム・エンジンの雄叫びが反響する。
この小さなクーペは、際立ってパワフルなわけでもないし、最速でもない。スタイリングも、息を呑むほど美しいわけではない。だが、ウインドウを開いて7000rpm近くまで吹けるエンジン音を耳にすれば、ほかのクルマが欲しいとは思わなくなる。
今回ご紹介するのは、少し古いトヨタ。ミドシップのMR-2や、ハリウッド映画で名声を高めたスープラではない。ずっとベーシックなモデルだ。
雷を意味するレビンとトレノ
近年のトヨタは、明らかに違う。メカニズムをBMW Z4と共有しつつ、伝説的なスープラを見事に復活させた。スバルと共同で4シーター・クーペのGT86を発売し、世界的に高い評価を集めた。さらに、GR86へ進化させてもいる。
日本のAUTOCAR読者なら、いまさらかもしれないが、この86という数字には起源がある。巨大なパワーをあえて否定し、軽くバランスに優れたシャシーとドライバーとの一体感を重視しよう、と思わせたオリジナルがある。
それは、40年近く昔のカローラ。正確にいうならカローラ・レビンと、日本国内のディーラー・ネットワークのために派生した、スプリンター・トレノ。コードネームが、AE86だったのだ。
レビンは古代英語で稲妻を意味する単語で、トレノはスペイン語で雷鳴を意味する。トレノがリトラクタブル・ヘッドライトで、レビンは横に長い固定式のヘッドライトと差別化されていたが、基本的な内容は殆ど同じといっていい。
本日お借りしたツートーンのAE86型のカローラ・レビンは、英国トヨタのヘリテイジ部門が管理する貴重な1台。英国市場へ正規輸入されたクルマで、1986年から1987年にかけて作られた後期型となる。
若い世代でご存知なければ、カローラと聞いて当たり障りのない4ドアサルーンや5ドアハッチバックを連想しても、まったく不思議ではない。AE86型のカローラがスポーツカーだっとは、思いもよらないだろう。