なぜメルセデスAMGはF1首位から滑り落ちたのか 苦境の2022年 回復は期待できず?

公開 : 2022.04.24 06:25

これまでF1首位を独占してきたメルセデスですが、今年は好調とは言えません。その訳は、ある現象にあります。

F1チームを悩ませるポーポイズ現象

F1に流行語大賞があるとしたら、2022年の大賞は「ポーポイズ現象(ポーポイジング)」だろう。メルセデスAMGによる8年間のF1支配が止まってしまったのは、この現象のせいである。

ポーポイズ現象とは、強力な地面効果を持つレーシングカーに携わったことのある人なら誰でも知っている、「跳ね返り」を繰り返すマシンの挙動である。水棲哺乳類であるネズミイルカ(porpoise)が、水面を飛び跳ねながら泳ぐことからこの名がついた。高速走行中に、車体が上昇と下降を繰り返すのである。

メルセデスAMG(左)とレッドブル(右)
メルセデスAMG(左)とレッドブル(右)

車速が上がるとともにダウンフォースが急激に増加し、ボディ下の低圧が高まって車体が地面に吸い付くようになる。やがて、車体が路面に接触するなどしてストールする。すると、ダウンフォースが一時的に減少するため車体は上昇し、再び地面効果が働いて地面に吸いつくように下がる。このサイクルが繰り返されるため、バウンドが発生するのだ。

新型のF1マシンはいずれも、多かれ少なかれポーポイズ現象に悩まされている。しかし、ストレートでのポーポイズ現象は、車体やドライバーにダメージを与えない程度にコントロールされていれば、必ずしも問題にはならない。問題は、コーナーに差し掛かったときに、どれだけ早くポーポイズ現象を止められるか、そして、ポーポイズ現象をコントロールするためにどのような妥協点を車両セッティングに盛り込むか、ということだ。

不利なマシン セッティングも困難

コーナー進入時では車体の挙動がすべてであり、特にエアロダイナミクスに支配されたF1マシンはそうである。そのため、規則に準拠したメカニカルプラットフォームと、コーナー進入時のエアロバランスのシフトを、コントロールしやすく、かつ信頼性の高いものにする必要がある。バウンドするクルマは予測不可能だ。

「止めることはできない。唯一できることは、アクセルを緩めて、ゆっくり走ることだ」

ジョージ・ラッセル(左)とルイス・ハミルトン(右)
ジョージ・ラッセル(左)とルイス・ハミルトン(右)

7度のチャンピオンに輝いたルイス・ハミルトンは、こう語っている。

「けれど、車体が上下するときはバウンドしている。300km/hのスピードで曲がるときに、車体に荷重がかかったり抜けたりすると、かなり不安定になることは想像できる」

ハミルトンが話してくれたのは、ポーポイズ現象が最も顕著に現れるフラットアウトのロングターンに続くオーストラリアGPの高速コーナー、ターン9とターン10でのマシンの挙動についてだ。

実はそこではメルセデスよりもフェラーリの方がポーポイズ現象が激しかったのだが、シャルル・ルクレールは予選でポールポジションを獲得し、優勝することができた。それはフェラーリの方がセットアップにおける犠牲が少なかったからで、ターン9への影響はかなり軽減されていた。これに対し、メルセデスのドライバーは高速コーナーへの進入を保守的にして、部分的にでもマシンを落ち着かせる必要がある。

メルセデスは、車高の面でより大きな妥協をしてセットアップを行わなければならない。フェラーリよりも低速でポーポイズ現象が発生するため、ダウンフォースとラップタイムを犠牲にすることになる。また、その代償としてドラッグ(空気抵抗)が増加する。そのため今シーズンは、低速コーナーが多く、サウジアラビアやオーストラリアよりも少し低めの速度で走ることができるバーレーンを得意としている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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