スポーティ・フォーマル ラゴンダV12 WO.ベントレーが手掛けたV型12気筒 前編
公開 : 2022.05.15 07:05
高度な技術が注がれた、85年前のラゴンダV12。ブランド最高傑作といわれる1台を英国編集部がご紹介します。
魅力的で神秘的なクラッシック
車体寸法と車重、エンジンや駆動系の構成、性能を示す数字などを理解すれば、どんなクルマなのか大まかには想像できる。実際には運転しなくても。
しかし、すべてがそうとも限らない。技術的に未成熟だった時代のクルマには、強く興味を抱かずにはいられない。どんなクルマなのか、知りたいという衝動に駆られる。
結果として、期待通りの体験を得られないこともある。実際に運転したデューセンバーグは肩透かしだったし、スタンダード・フライングV8やクロスッリー・バーニー・ストリームライン といったクルマは、珍しい理由をよく理解できた。
一方で、フェラーリ250 GTOやフォードGT40といったレジェンドには、今でも強く興味をそそられる。メルセデス・ベンツ300 SLRのステアリングホイールも、いつか握りたいと筆者は思い続けている。
そんな1台に含まれるのが、ラゴンダV12。魅力的で神秘的なクラッシックを、忘れることは難しい。
多くの素晴らしいモデルと同様に、ラゴンダV12にも興味深い背景がある。実業家だったアラン・グッド氏は1935年にラゴンダ社を救い、ロールス・ロイスとの契約が満了した技術者のWO.ベントレー氏を招き入れた。
1935年のル・マンで、ラゴンダは優勝を掴んでいた。新しい経営者は、世界最高のクルマを作ろうと従業員を鼓舞した。WO.ベントレー氏も、期待へ応えるように新モデルへ取り組んだ。製造費用や販売価格を考慮せず、最高を追い求めた。
130km/h以上で高速道路を走れる性能
標準サルーンボディを載せたラゴンダV12の英国価格は、1200ポンド。その時代の平均年収は200ポンドを超えず、大衆車のオースチン・ルビーが125ポンドで売られていた。
ただし、型破りなほど高かったわけではない。7.2L V12エンジンのロールス・ロイス・ファントムIIIは、シャシーだけで2600ポンドしていた。倍以上の違いがあった。
ラゴンダV12の場合、当時の英国での自動車税を算出した課税馬力が42HPに該当し、年間42ポンドの税金が課せられた。平均年収が200ポンドにも満たない時代に。
この課税馬力は、ロング・ストロークで低回転型のエンジン設計に英国の技術者を縛っていた。高い税率を避ける必要があった。それでもWO.ベントレー氏は、ショート・ストロークで高回転型にこだわった。
フラッグシップとして、シフトチェンジを頻繁に必要としない粘り強さを備え、160km/h以上の最高速度が不可欠だと考えた。欧州で敷設が進む高速道路を、トップギアに入れ、130km/h以上で疾走できる能力を実現するために。
その一方で、究極的な洗練度や力強さを求めないドライバー向けといえる、手頃なライバルがラゴンダ自体に存在した。同じシャシーに、4.5Lのメドウズ社製LG6型6気筒エンジンを搭載することも可能だった。