才色兼備なイタ車 ランチア・ベータ HPE/クーペ/スパイダー 英国版クラシック・ガイド 前編
公開 : 2022.06.12 07:05
フィアットの協力で生まれたFFモデル、ベータ。価値を高めるイタリアン・クラシックを、英国編集部がご紹介します。
クラス随一に運転の楽しいクルマ
今から半世紀ほど前、フィアットの協力を受けたランチアは、次期小型モデルのためのリソースを手に入れた。そして、まったく新しいファストバックのベルリーナ(サルーン)、ベータを発表。美しいクーペへと展開させた。
あか抜けしたスタイリングを手掛けたのは、社内デザイナーのアルド・カスタニョ氏とピエロ・カスタニェロ氏という2人。ボディパネルは、ベルリーナとまったくの別物だ。
ボディサイズも異なり、クーペの方が約30cm短く、約5cm狭く、約13cmも低い。ホイールベースは約23cm短く、別モデルのような活気ある容姿に仕上がっていた。スパイダーと呼ばれるコンバーチブルも存在した。
調子を掴んだランチアは、ハイ・パフォーマンス・エステート(HPE)と呼ばれるバリエーションも展開。才色兼備といえる内容で、販売も好調だった。
エンジンは、フィアット社製のツインカム4気筒がベース。ランチアの技術者はシリンダーの燃焼室を半球型にするなど、大幅な改良を加えている。当初は1.6Lと1.8Lの2種類がラインナップされた。
搭載位置はフロントで、トランスミッションと一緒にサブフレームを介した横置き。サスペンションは独自設計のもので、前後ともにマクファーソンストラット式を採用。リアのアンチロールバーは、取り付け方法が独特だった。
このサスペンションは良く機能し、当時のある自動車誌は「カーブの続く道をこれほど楽しく運転できるクルマは、このクラスで他に例がありません。市街地で、ここまで多くの関心を集めるクルマも」。と絶賛している。
スーパーチャージャーを載せたVXも
スパイダーのデザインを担当したのは、ピニンファリーナ社。生産はザガート社が請け負った。しかし製造過程は、1度完成したクーペのボディを切断し、ランチアとザガートを何度か往復するという効率の悪さ。結果的に、もう1台買えるほどコストは高騰した。
ホイールベースの延ばされたHPEは、クーペと同様に社内デザイナーが担当。クーペやスパイダーと比べて、実用性では優位だった。
発売後も改良が続けられ、魅力度を増したことも特長だろう。1975年後半、パワフルな2.0Lエンジンが登場。1981年には燃料インジェクション化され、1983年にスーパーチャージャーで過給するヴォルメックス「VX」がクーペとHPEに追加されている。
このVXのベータは珍しく、近年では最も人気が高い。クーペが1272台、HPEでは2370台がラインオフしている。ボンネットバルジや、フロントとリアに追加されたスポイラーなどが見た目の違い。サスペンションも強化されていた。
上級ブランドのランチアらしく、装備は充実。リア・サスペンションの高さを調整しヘッドライトの角度を保つ、オートレベリング機能も搭載していた。
その当時、英国はイタリアに次ぐランチア最大の市場。たが、異なる気候風土が影響しボディは良く錆びた。ブランドの評判に、深く傷を付けることにつながった。
それでも、ベータに惹かれた人は少なくなかった。優れた動的能力と端正な容姿とがバランスした、魅力的なイタリアン・クーペだといえる。