才色兼備なイタ車 ランチア・ベータ HPE/クーペ/スパイダー 英国版クラシック・ガイド 前編

公開 : 2022.06.12 07:05

フィアットの協力で生まれたFFモデル、ベータ。価値を高めるイタリアン・クラシックを、英国編集部がご紹介します。

クラス随一に運転の楽しいクルマ

今から半世紀ほど前、フィアットの協力を受けたランチアは、次期小型モデルのためのリソースを手に入れた。そして、まったく新しいファストバックのベルリーナ(サルーン)、ベータを発表。美しいクーペへと展開させた。

あか抜けしたスタイリングを手掛けたのは、社内デザイナーのアルド・カスタニョ氏とピエロ・カスタニェロ氏という2人。ボディパネルは、ベルリーナとまったくの別物だ。

ランチア・ベータ・クーペ(1974〜1984年/英国仕様)
ランチア・ベータ・クーペ(1974〜1984年/英国仕様)

ボディサイズも異なり、クーペの方が約30cm短く、約5cm狭く、約13cmも低い。ホイールベースは約23cm短く、別モデルのような活気ある容姿に仕上がっていた。スパイダーと呼ばれるコンバーチブルも存在した。

調子を掴んだランチアは、ハイ・パフォーマンス・エステート(HPE)と呼ばれるバリエーションも展開。才色兼備といえる内容で、販売も好調だった。

エンジンは、フィアット社製のツインカム4気筒がベース。ランチアの技術者はシリンダーの燃焼室を半球型にするなど、大幅な改良を加えている。当初は1.6Lと1.8Lの2種類がラインナップされた。

搭載位置はフロントで、トランスミッションと一緒にサブフレームを介した横置き。サスペンションは独自設計のもので、前後ともにマクファーソンストラット式を採用。リアのアンチロールバーは、取り付け方法が独特だった。

このサスペンションは良く機能し、当時のある自動車誌は「カーブの続く道をこれほど楽しく運転できるクルマは、このクラスで他に例がありません。市街地で、ここまで多くの関心を集めるクルマも」。と絶賛している。

スーパーチャージャーを載せたVXも

スパイダーのデザインを担当したのは、ピニンファリーナ社。生産はザガート社が請け負った。しかし製造過程は、1度完成したクーペのボディを切断し、ランチアとザガートを何度か往復するという効率の悪さ。結果的に、もう1台買えるほどコストは高騰した。

ホイールベースの延ばされたHPEは、クーペと同様に社内デザイナーが担当。クーペやスパイダーと比べて、実用性では優位だった。

ランチア・ベータ・クーペ(1974〜1984年/英国仕様)
ランチア・ベータ・クーペ(1974〜1984年/英国仕様)

発売後も改良が続けられ、魅力度を増したことも特長だろう。1975年後半、パワフルな2.0Lエンジンが登場。1981年には燃料インジェクション化され、1983年にスーパーチャージャーで過給するヴォルメックス「VX」がクーペとHPEに追加されている。

このVXのベータは珍しく、近年では最も人気が高い。クーペが1272台、HPEでは2370台がラインオフしている。ボンネットバルジや、フロントとリアに追加されたスポイラーなどが見た目の違い。サスペンションも強化されていた。

上級ブランドのランチアらしく、装備は充実。リア・サスペンションの高さを調整しヘッドライトの角度を保つ、オートレベリング機能も搭載していた。

その当時、英国はイタリアに次ぐランチア最大の市場。たが、異なる気候風土が影響しボディは良く錆びた。ブランドの評判に、深く傷を付けることにつながった。

それでも、ベータに惹かれた人は少なくなかった。優れた動的能力と端正な容姿とがバランスした、魅力的なイタリアン・クーペだといえる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マルコム・マッケイ

    Malcolm Mckay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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