市場から姿を消せば悲劇 トヨタGR86へ英国試乗 稀有なドライビングマシン 前編
公開 : 2022.06.09 08:25
少数ながら、英国へ上陸した2代目86。手頃な価格と運転へ深く惹き込まれる個性を、英国編集部は高く評価します。
英国の割り当て台数は90分で完売
たった90分だった。英国へ正規導入されるGR86の、2年間のキャパをトヨタが売り切った時間だ。それ以降、今のところ英国のディーラーに並ぶ予定はない。
理由は、EUがクルマの安全性や環境負荷の改善を取り決めた、GSR規制のB基準が施行されると、GR86を販売できなくなるため。基準に合致するよう、改良を加える必要が出てくる。
追加導入もあるかもしれないが、限られた数の奪い合いになるだろう。見事に契約へ取り付け、1000ポンド(約16万円)の手付金を払い終えた430名と噂される英国人は、自身の結果を讃えて良いだろう。
今後、中古車市場に出てくるGR86には、プレミアが付いて不思議ではない。限定生産のフェラーリとは違うトヨタのクーペだが、想像に難くない。
エンジンの最高出力は、最新のフォルクスワーゲン・ゴルフGTIより低い。しかし、クルマ好きの心を想像し、それに応えるクルマを創造し、堅実な価格設定を与えることができれば、需要はスーパーカーとは比べ物にならなないほど高くなる。
英国の場合、マニュアル・ギアのGR86のお値段は、2万9995ポンド(約479万円)から。最新モデルの価格としては、間違いなくお手頃といえる。多くのドライバーが欲しいと考えても、まったく不思議ではない。
2+2クーペのシルエットに2.4Lボクサー
それでは、手付金を支払った限られた人が楽しめるGR86とは、どんなクルマなのか。突き詰めれば、2012年に発売され少なくないドライバーを魅了した、トヨタGT86(86)の進化版といえる。
先代が英国市場で売れた数は、9年間に7500台。赤字ではなかったにしろ、利益率は低かったはず。しかし、われわれのためにトヨタが行動したという事実が、大きな見返りを生んだと思う。
GT86は、その後のスープラとGRヤリスへの布石になった。このGR86への足がかりにもなった。モデル開発に関わったガズーレーシングのGRというイニシャルは、大きく認知度を高め、一目置かれる存在にもなっている。
さて、新しいGR86を眺めてみよう。サイドシルエットは、フロントエンジン・リアドライブの2+2クーペらしい。先代で称賛を集めた水平対向の1998cc自然吸気エンジンは、大幅に改良が加えられ、低いボンネットの内側に納まっている。
車両構造上、幅の広いエンジンのストロークを伸ばすことは難しく、シリンダーの内径、ボアが拡大されている。オーバースクエアとなり、排気量は2387ccになった。
それに伴い、コンロッドやクランクシャフト・ピンは強化品へ変更。インテークマニホールドやインテークバルブ、バルブスプリング、スロットルボディも新設計だという。
結果として、最高出力は英国仕様で199psから234psへ増強。最大トルクは20.8kg-mから25.3kg-mへと、明確に引き上げられている。従来どおり、ターボチャージャーは備わらない自然吸気だ。