特別の中の特別 4世代のBMW M3を振り返る  スポーツ・エボ/GT/CSL/GTS 前編

公開 : 2022.06.18 07:05

BMWきっての高性能モデルといえば、M3がその筆頭。歴代に存在した特別仕様4台を、英国編集部がご紹介します。

クルマ好きの心をしっかり掴んだM3

レースの参戦規定に合致させるため特別に作られる、少量のホモロゲーション・モデル。さほど規模の大きくなかった1980年代のBMWにとっては、決して小さな出費で済む仕事ではなかった。

もちろんそれは、車両価格へも反映はしていた。1987年当時、E30型BMW 325iスポーツの英国価格は1万6685ポンドだったが、4気筒だった最初のM3には、2万2750ポンドという値段が付けられていた。

レッドのBMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型)とダークグリーンのBMW M3 GT(E36型)
レッドのBMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型)とダークグリーンのBMW M3 GT(E36型)

その2年後には、左ハンドル・モデルのみの設定でM3 スポーツ・エボリューションが登場。英国価格は3万4500ポンドへ跳ね上がった。

とはいえ、初期からM3はモータースポーツで疑いようのない成功を収めてきた。ブランドの認知度を高め、量産モデルの魅力度を強め、販売を後押ししてきた。ホモロゲーション・モデルに予算を割く価値は、間違いなくあったといえる。

くさび形のシルエットを持つスーパーカーとは一味違う高性能モデルとして、クルマ好きの心をM3はしっかり掴んだ。秀でたパフォーマンスを実用的なパッケージングで実現し、他とは一線を画す仕上りといえた。

まだ誕生から日の浅かったBMWモータースポーツ社、現在のM社が、E30型の2代目3シリーズをベースに、クラスAへ準拠するレーシングカー開発に着手したのは1981年。その頃既に、スーパーカーのBMW M1とF1エンジンの開発で実績は残していた。

レースに向けて多くがサーキットへ最適化

最初のM3がお披露目されたのは、1985年のフランクフルト・モーターショー。英国や日本のディーラーへ到着したのは1987年だった。同じ年、イタリア・モンツァ・サーキットで初戦が開かれた世界ツーリングカー選手権で、レースデビューも果たしている。

初代M3では、モノコック構造とサスペンション・レイアウトは通常のE30型のものが維持されたが、多くの部品がレギュレーションの範囲内でサーキットへ最適化された。ボディパネルは、ボンネットのみが通常のクーペと同一だった。

BMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型/1989〜1990年/欧州仕様)
BMW M3 スポーツ・エボリューション(E30型/1989〜1990年/欧州仕様)

幅の太いホイールを収めるべく、前後のフェンダーはブリスター化。トランクリッドは空力特性を改善するため、40mmも持ち上げられた。

BMWが開発したM10と呼ばれる4気筒ユニットは、シリンダーの内径、ボアを93.4mmへ広げ排気量を2.3Lに拡大。E28型M5のものから派生したツインカムヘッドが載せられ、S14ユニットへと進化した。

燃料供給は、最先端だったボッシュ・モトロニック燃料インジェクション。気筒毎にスロットルボディが組まれ、最高出力195psを発生した。ゲトラグ社製の5速MTとリアのリミテッドスリップ・デフが、そのパワーを受け止めた。

クラスAの規定に準拠し、5000台のM3を販売したBMWは、500台の特別モデルの製作が可能になった。そこでレースを有利に運ぶべく、1987年にM3 エボリューションが登場。エンジンへ手が加えられ、215psへパワーアップを果たした。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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