制裁下ロシア 80年代スペック「旧車仕様」の新車生産 背に腹は代えられぬ背景
公開 : 2022.06.05 10:05
ロシアは経済制裁に対抗し、環境基準は80年代レベルの旧車仕様の新車の生産を開始。メーカーを取材しました。
日欧メーカーの新車が買えなくなる
ウクライナ侵攻をおこなったロシアへの経済制裁として日本や欧州の自動車メーカー各社は2月末から3月上旬にかけて、ロシア国内の販売事業やロシアへの車両や部品の輸出を停止する措置をとった。
これらの経済制裁は3か月経過した現在も続いており、日本メーカーの新車販売に関しては「在庫が無くなり次第終了」という状況である。
まずは、ロシアでどのような日本車がどれくらいの台数を生産しているのかお伝えしておきたい。
ロシアで新車を生産しているのは、日産、トヨタ、三菱、マツダの4社である。(【】内はロシアにおけるメーカーの名称で車名は主な生産モデル。販売台数は2021年のデータ。出典:FOURIN世界自動車調査月報)
【Avtoframos】ルノー/日産
日産テラノ(他のルノー車と合計で14万4571台)
※テラノの名称ではあるが、実際にはルーマニアの自動車メーカー「ダチア」(ルノーグループ)のクロスオーバー「ダスター」に日産バッジをつけて「テラノ」として販売しているモデルである。
【PCMA Rus】プジョー/シトロエン/オペル/三菱
三菱アウトランダー、パジェロ・スポーツなど合計2万1429台
【トヨタ】
【日産】
エクストレイル、ムラーノ、キャシュカイなど合計5万2073台
【Sollers Auto】フォード/マツダ
これらは現地生産のモデルで、このほかに日本から輸入される乗用車+トラックが約11万台(2021年)
さらに日本からの中古車も年間約16万台(同)が輸入されている。
ロシアは日本からの中古車仕向け国として世界1位の台数である。
なお、中古車に関しては3月に数週間、輸出停止となったが、3月末には復活しており、600万円以下の中古車であれば日本からロシアへの輸出は許可されるようになった。
現在、日本とロシア間の自動車関連する事業は日本からの中古車輸出だけがおこなわれている状況である。
なぜ、「旧車仕様」を生産開始?
完成車メーカーによる制裁でロシア国内での海外メーカー車の新車生産や販売、新車輸入はほぼ不可能となっているが、さらに日本や欧州の自動車部品メーカーからの部品供給も事実上ほぼ停止している。それゆえ、ロシアメーカーの新車生産も非常に厳しくなっている。
そこでロシアメーカーが考え出したのが、エアバッグ、ABS 、排ガス浄化装置などを「のぞいた」ロシア車をロシア国内でつくることである。
「旧車」といっても、旧型のクルマを復刻生産するのではなく、カタチは基本、最新の姿ではあるが中身(各種の装備)を1980年代~1990年代の「旧車仕様」にする、という意味である。
とくに注目すべきは「環境基準」
ロシア政府がこのたび許可することになった環境基準(排ガスや燃費などの基準)はなんと1988年レベルの「ユーロ・ゼロ」とされる、「ユーロ〇」とはEUにおける段階的な自動車排出ガス規制のこと。
欧州では1970年から乗用車と小型トラック、1988年から総重量3.5t以上の重量トラックに対する規制が実施されてきた。
1992年からは「ユーロ1」から始まる基準となり、2009年からは「ユーロ5」、2014年からは「ユーロ6」が導入されている。
現在、ロシア国内の基準および輸出車の最低基準は「ユーロ5」である。
この状況下で1988年レベルの「ユーロ0」に戻すということは、当然「ユーロ3」で義務付けられたOBD(車載故障診断装置)などの装備も不要ということになる。
1988年といえばまだ旧ソ連(USSR)の時代。
同年11月にエストニア・ソビエト社会主義共和国が主権宣言をおこなったのを皮切りに、共和国が続々と独立していった頃だ。
なおウクライナの「主権宣言」は1990年におこなわれ、実際にウクライナ・ソビエト社会主義共和国から独立して「ウクライナ」になったのは1991年8月24日である。
旧ソ連時代の環境基準まで引き下げるとは、相当な決意? ではあるが、実際、大手自動車メーカーも「旧車仕様」で自動車の生産をおこなうことを公表し始めている。