アップル号はまだ先? 巨大企業アップル、クルマの「製造・販売」と距離をとるワケ
公開 : 2022.06.07 12:53
巨大企業アップルがクルマの製造・販売をおこなう可能性はあるのでしょうか。アップルとクルマの関係を解説します。
つきまとう「自動車業界参入」のうわさ
さる2020年、テスラの株式ベースの時価総額がついにトヨタを超えたことが話題になりました。
その後もテスラの株価は駆け上がり続け、21年は一時100兆円を軽々と突破。
日本の自動車メーカーすべて、あるいはフォルクスワーゲンやGMといった世界の主要メーカーが束になってもおよばない額に達してしまいました。
現在は90兆円前後をウロウロしていますから、トヨタのざっと3倍といった見当でしょうか。
彼らがそれに見合ったパフォーマンスや社会的受容性を備えているかについては、個人的には甚だ疑問です。
ですが、今回それは置いといて、単純に企業の価値ではなく規模の尺度をみるための時価総額としましょう。
そのテスラのさらに3倍の時価総額を誇るのがアップルです。
ちなみに現在の時価総額は300兆円オーバー。
単純にいえば世界一の金持ち企業ということになりますが、このよくわからない金額を何かになぞらえるとすれば、日本の年間国家予算の約3倍ということになります。
そんな巨大企業に延々とつきまとううわさが自動車事業への参入です。
アップル・カープレイで現実化
プロジェクト・タイタンという社内コードのもとに、その企画が社内承認を経てスタートしたのは14年といわれています。
折しもカープレイがリリースされた年と重なっているのが興味深いところですが、その以前からアップルとクルマのうわさは折につけ囁かれてきました。
08年にはかのスティーブ・ジョブス氏が実際に参入検討していたという、当時のアップルの幹部の証言もあります。
個人的にはちょうどその頃、とある国内メーカーのお偉いさんと、会食かたがたアップルとクルマの親和性について議論をしたことを覚えています。
まだアイフォンが3の世代だったころですが、当時からスマートフォンのUXとそれを指1本でスムーズに引き出すアップルのUIには、何かしらの迫力を感じていたのでしょう。
ただし当時はまだ彼らがクルマを手掛けるという想定ではなく、社内のインフォテインメントにおいてイニシアチブを握られる時が来るのではないかという脅威のほうが強かったようでした。
実際、その懸念はカープレイで現実化するわけです。
しかし、その普及には思いのほか、時間を要しました。
自動車業界がアップルを受け入れたワケ
インフォテインメントシステムは競争領域で膨大な投資もサプライチェーン構築も進めてきたというのに、みすみすライセンス料を払ってまでそこを明け渡し、ユーザーの活動情報を持っていかれる筋合いはない。
ましてや車両全体のセキュリティが課題として顕在化しつつある中、他所のワケのわからない通信機器を挟みたくもない。
そういう思惑が自動車メーカー側にあったのは間違いありません。
が、ここまでスマートフォンが普及すると車両とのコネクティビティは車両自体のユーザビリティと直結します。
ましてや日本はアイフォンのシェアが異例に大きい国。
自動車メーカーとしては母数にも圧されて渋々門を開かざるを得なくなったというのが正直なところでしょう。
これぞGAFAの常套勝ちパターンという感じです。
そのうえで前述の時価総額をもとにした資金調達力があれば、あらかたの自動車メーカーを傘下に収めることもまったく夢物語ではないわけです。
その気にさえなれば、いつでもクルマ屋として名乗りを上げられる。アップルがそういう距離にいることは間違いありません。
逆にいえばアップルは、自ら自動車事業との間合いを計っているともいえます。
それはなぜか。