奇抜な3ドア・ミニバン ルノー・アヴァンタイム 素晴らしき「失敗作」の魅力に迫る
公開 : 2022.06.07 19:45
2001年にルノーが世に送り出したアヴァンタイム。その斬新さゆえに現在でも一部から熱狂的な支持を得ている「クーペ」を紹介します。
フランス語に不可能という言葉はない
まるで高速道路を走る鉄道機関車のような、異様な存在感を放つルノー・アヴァンタイム。
その希少性から、2001年の発売時と同じように、現在でも大きなインパクトを放ち続ける名車(珍車)となっている。
ファミリーカーの主流がミニバンからSUVに移りつつある今、この奇妙で魅力的なクルマを振り返ってみよう。
新しき葡萄酒は新しき革袋に入れよ
アヴァンタイムはおそらく、今世紀で最も壮大な「愚行」と言える。ルノーは、メルセデス・ベンツやBMWの研ぎ澄まされた高級セダンに対抗して、まったく新しいラグジュアリーを発明しようとしたのである。
それはまた、自動車メーカーの「義務」の産物でもあった。ルノーは、ミニバンのエスパスの生産拠点を他所に移し、ボディをマトラ社の得意とする鉄と複合材の組み合わせではなく鋼板で作ることにした。そのため、空っぽになったマトラの工場で「別の何か」を作らせる必要があったのだ。
こうして生まれたのは、後にも先にも似たものが存在しない、ミニバンのようなクーペであった。
ルノーのデザイナーは、大型ミニバンという固形物を使って新しくグラマラスなマシンを創り出すという、並外れた難題に直面した。その結果、ティーポットから取っ手を取り除いたような、背の高いクーペが誕生したのである。自動車デザイナーの創造力の結集である。
言うは易く行うは難し
3ドアのアヴァンタイムは、原理的には「クーペ」であったが、ルーフラインに傾斜はない。その代わりに、崖のようなリアウィンドウと突き出たリアバンパーによって見た目に華やかさを与えている。しかし、クーペ特有の細長いドアと、ピラーレスのサイドウインドウを備えていた。
ソファーのように豪華なシートに座れば、ガラス張りのルーフのおかげで外の景色をほとんど遮られることなく楽しめる。本来なら後席の広さはミニバンの醍醐味の1つだが、アヴァンタイムの場合はパッケージングに難があるため、後席の足元はラッシュアワーの通勤電車のような狭さだった。
アヴァンタイムの欠点はこれだけではない。金庫のように重厚なドアは、1枚56kgもある。そのため、坂道で駐車すると、ドアの重さで閉じ込められてしまう可能性が非常に高い。平地でも開けるのに一苦労だ。
しかし、ダブルヒンジの開閉機構は優れもので、一般的なドアよりも操作がしやすい。狭い場所でも開口部が広く取れるため、混雑した駐車場では何かと便利だ。