完璧主義のレストア ジャガーEタイプ・シリーズ1 ロードスター ネジ1本までオリジナル 前編
公開 : 2022.07.03 07:05
徹底的にオリジナル状態が保たれた、ジャガーEタイプ・シリーズ1。30年越しで仕上げた1台を英国編集部がご紹介します。
30年越しで仕上げたシリーズ1 ロードスター
英国クラッシックの定番といえば、ジャガーEタイプはその筆頭だろう。AUTOCARでも何度も登場している。
ジャガーのレストアを専門とするポール・ブリッジズ氏は、Eタイプへの追求心が収まらないらしい。160 RKJのナンバーを付けたシリーズ1 ロードスターを、30年越しで手掛けてきた。
レストアが一段落したEタイプは、2021年に英国で開催されたコンクール・デレガンス、サロン・プリヴェでお披露目。同時開催となった、ジャガー・カークラブの60周年記念コンクールでは、オリジナルに準じた品質として認められ、優勝を掴んでいる。
シャシーや部品番号が一致するのは序の口。芸術作品を修復し鑑定するのと同じくらい、細心の注意が払われている。
ブリッジズは、ナットやボルト、ワッシャーに至るまでオリジナルであることを確認するため、信じがたい労力を割いてきた。長い間眠っていた真新しい部品だけでなく、40年以上前に製造されたダンロップRS5という、クロスプライ・タイヤも発見した。
彼は31年間、ジャガーでエンジニアとして働いた経歴を持つ。ジャガー・ランドローバー(JLR)によるクラシックカーの再生事業、リボーン・プロジェクトのプログラム・マネージャーも経験し、Eタイプのボディ修復へも公式に関わった。
自身のクルマを完璧にするという使命を感じても、不思議ではなかった。2018年以降はバーミンガム郊外のヘリテージ・クラシックス社へ移籍。日々の業務をこなしつつ、シリーズ1 ロードスターにも愛情を注いでいる。
量産仕様とは異なる最初期のEタイプ
ブリッジズが最初にEタイプを購入したのは、1989年。アメリカのアリゾナから、2+2のハードトップを6000ドルで仕入れたという。「あまり人気のない年式のEタイプでしたが、完全にサビとは無縁でした」
「英国で生き抜いたサンビーム・タイガーのボディを手掛けていた時期で、サビがないのが嘘のようでしたね」。と彼が振り返る。
それから数十年、ブリッジズはEタイプへの関心を強めていった。「整備士としての経験はありませんでしたが、父のフォード・カプリのクラッチ交換を、土曜日の朝に終わらせるだけの技術は持っていました」
レストア心へ完全に火が付いたのは、2000年。きっかけは、彼が出展したシリーズ3 ロードスターが、コンクール・イベントで優勝したことだったという。
ジャガーEタイプのレストアへ本格的に取り組むなら、160 RKJのようなシリーズ1は理想的といえる。1961年5月4日に製造されたシャシー番号850022のクルマで、右ハンドル車としては22台目に作られた、本当に最初期のEタイプだ。
その後の量産仕様とは異なる、この時期のモデルだけの特徴も備えている。一種のプロトタイプのような成り立ちで、一般的な知識だけでは完璧なレストアは難しい。
この850022のEタイプは、経営責任者の1人だったロフティー・イングランド氏と営業部門のために用意され、社会的に影響力を持つ人へ販売するよう指定されていた。量産を前にし、欠陥が出た場合の口止めを頼める人が候補だったようだ。