V2Gは儲かる? EVに蓄えた電力で電気代が半額に… 欧州で実証実験進む

公開 : 2022.07.02 06:25

EVのバッテリーに蓄えた電力を電力網に供給するV2G(双方向充電)。電力需要の高い時間帯に売電することで、月々の電気料金の節約につなげる実証実験が欧州で行われています。

安いときに買って、高いときに売る

電力価格が高騰している今、オフピーク時に安く買って、ピーク時に高く売るというのは非常に魅力的な話だ。そのためには、余剰電力を価格が適切になるまで貯めておく必要がある。ここで活躍するのが大型バッテリーを積んだEV(電気自動車)だ。

EVに蓄えた電力を、電力会社が管理する電力網へ供給するこの仕組みは「ビークル・トゥ・グリッド(V2G)」と呼ばれている。再生可能エネルギーによる不安定な電力供給を補い、より実用的なものとすることで、化石燃料への依存を減らすことができると考えられている。

V2Gは不安定な再生可能エネルギーを補完するだけでなく、消費者への直接的なメリットももたらすかもしれない。
V2Gは不安定な再生可能エネルギーを補完するだけでなく、消費者への直接的なメリットももたらすかもしれない。

消費者が不要になった再生可能エネルギーを売って利益を得ることができるという副次的な利点もあるが、多くの人が言うように、真の利点は世界の再生可能エネルギーへのシフトを加速させることである。

欧州を中心に、V2Gの実用性を検証するための大きな一歩が踏み出され、その結果は今のところ良好なようだ。V2Gは消費者に対し、どのような効果をもたらしてくれるのか。英国の実例を紹介したい。

昨年は年間10万円以上稼いだツワモノも

英国の配電会社ウエスタン・パワー・ディストリビューション(WPD)と、データ管理会社クラウドチャージが参加するプロジェクト「Electric Nation」では、日産のEVユーザー100人の家にV2G対応充電器を設置する実証実験を行った。

この充電器は、バッテリーの充電と電力網への供給を行うだけでなく、電力会社4社から料金体系を随時選択できるものだ。クラウドチャージは、各ユーザーの充電状態に対する好みを考慮しながら、変化する料金体系に対応できるようにバッテリーを遠隔管理した。

マリー・ハバードさんの自宅ではソーラーパネルの効果もあって、日産e-NV200のV2Gにより月々の電気代が半減したという。
マリー・ハバードさんの自宅ではソーラーパネルの効果もあって、日産e-NV200のV2Gにより月々の電気代が半減したという。

こうしたV2Gは、メーカーのバッテリー保証に影響はなく、日産も同様の試験でバッテリーの寿命が短くなったことはないと述べている。

実験参加者の1人であるマリー・ハバードさんは、日産のキャンピングカー「e-NV200」を電気料金の安い夜間に充電するように設定することで、ピーク時に電気を売って月25ポンド(約4000円)を得たと報告している。

彼女はEVの充電にソーラーパネルを使っており、V2G充電器の機能により、バッテリーに蓄えた電力を自宅に供給することもできた。その結果、月々の電気代は50ポンド(約8000円)から25ポンドに半減したという。

エネルギーコストが高騰した2021年11月には、電力を売って1日50ポンドも稼いだ参加者もいる。ただし、この時期は例外的なものである。同年、公共団体の低公害車推進室(OLEV、現OZEV)が資金提供し、日産などの企業が参加した別のプロジェクトでは、参加者が売電により年間最大725ポンド(約11万8000円)を稼いだと報告されているのだ。

クラウドチャージのCEOであるマイク・ポッター氏は、「Electric Nation」プロジェクトについて、V2Gの経済的なメリットだけでなく、消費者の前向きな意欲も実証したと述べている。参加者の半数以上が、今後もV2G対応充電器を使い続けることを選んだという。

自分で買うと、一般的な充電器より4500ポンド(約70万円)も高い5500ポンド(約90万円)という価格も、その動機になったのかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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