「EVだけが答えじゃない」 科学者が語るトヨタの未来 気候変動への向き合い方

公開 : 2022.07.12 20:25

トヨタの研究部門トップに独占インタビュー。EVに関する誇大広告への危機感や、地球規模の気候変動への向き合い方を語ってくれました。

誇大広告は敵

物腰が柔らかく、事実に基づいた話をする科学者との会話が新鮮に感じられるのは、現代社会の歪んだ一面を物語っているのかもしれない。トヨタ・リサーチ・インスティチュート(TRI)のギル・プラットCEOと1時間も話していると、そのように感じられる。

彼の魅力は、その語り口だけでなく、頭脳にある。現在、彼はトヨタ自動車でチーフサイエンティスト、研究担当エグゼクティブフェロー、トヨタ・リサーチ・インスティチュートのCEOを務めている。過去には米国国防高等研究計画局でロボット工学とコンピューティングの責任者、マサチューセッツ工科大学で電気工学とコンピュータサイエンスの准教授も経験している。

自動車産業は気候変動問題の解決に貢献しなければならない
自動車産業は気候変動問題の解決に貢献しなければならない

また、「自分が正しいとは証明できない」という事実をはっきりと述べる他、トヨタが既得権益者としてしばしば非難される余地があることも認めている。

しかし、ここで彼が自らの言葉で説明しているように、2つのことについては絶対的に確信している。気候変動危機は現実であり、バッテリー電気自動車(BEV)だけの未来に急ぐことは地球にとって最善の利益にはならない、ということである。

――あなたの意見に耳を傾けるべき理由は何でしょうか?

「もちろん、誰もわたしの話を真剣に聞く必要はありません。ですが、わたしはできるだけ事実に基づき、科学的根拠を持って、この問題をあらゆる側面から語ることを心がけています」

「わたしは長年、教師をしてきたので、そのようなアプローチは自然なことです。わたしが学んだのは、誇大広告は敵であるということです。誇大広告は、人々に事実を誤認させ、間違った決断をさせることにつながります」

「誇大広告は人々の心を閉ざします。1度使うと、さらに誇大広告にお金を使う事になります。約束されたことが実現されないと失望につながります。誰にとっても悪いことです」

EVが唯一の正解ではない 

――EVは間違っているのでしょうか?

「いいえ。一部の人にとっては、バッテリー電気自動車がまさに正しい選択であることは認めます。しかし、独自の調査によると、すべての人に当てはまるわけではありません」

「リチウムイオンバッテリーには問題がないわけではありません。採掘された希少な素材から作られていますが、これに対してエンジンは、より一般的な素材を多く使って作られています。また、送電網のエネルギーミックスも世界各地で違いがあります」

トヨタ・リサーチ・インスティチュート(TRI)の代表を務めるギル・プラット氏
トヨタ・リサーチ・インスティチュート(TRI)の代表を務めるギル・プラット氏

PHEV(プラグインハイブリッド車)とBEV(電気自動車)は、非常に近い存在です。どちらか一方が常に正しい究極の解決策とは限りませんが、現状ではPHEVの方が良い選択となることが多いです」

「PHEVも完璧ではありませんが、バッテリーをフルに活用できますし、航続距離不安の問題もありません。不安だからといって乗り換えを我慢するのではなく、よりクリーンな乗り物に乗り換えるための解決策となります」

「わたしが問題視しているのは、正しい解決策が用意されているかどうかということです。正しい解決策は、単一の技術ではありませんし、少なくとも今日、自信を持ってこれだと言うことはできません。むしろ、地球にとって最も大きな違いをもたらす現実的な技術が研究されていることを期待します」

――しかし、あなたは気候変動の危機を認めているのですから、ゼロ・エミッションを目指すべきなのでは?

「ええ、そうすべきです。わたし達はゼロ・エミッションを目指さなければなりませんが、全世界が同時に達成することはないでしょう」

「人類が排出したCO2は、これから何百年もの間、人類と一緒にいることになるのです。最大で1000年続く貯蔵庫が構築されており、実質排出量がゼロ以下になるまで減ることはないでしょう」

「地域ごとの課題に応じて、可能な限りCO2排出量を削減する答えが必要なのです。答えは時代とともに変わります」

「だから、BEVは全世界にとっての正解ではないんです。ある地域には向いていても、どこにでも通用するわけではありません」

「誰もが大志を持つべきだ、というのは正しい。しかし、排気ガスを出さなければゼロ・エミッションになるというわけではありません。インフラはどうするのでしょう?発電は?原材料の入手は?」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジム・ホルダー

    Jim Holder

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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