M誕生50周年 BMW M5 CSでニュルブルクリンクへ 創設者と開発本部を尋ねて 前編
公開 : 2022.08.13 09:45
BMWの高性能部門、M社が誕生50周年。英国編集部がM5 CSを味わいつつ、その起源を訪ねるべくドイツへ向かいました。
BMWモータースポーツ社を立ち上げた人物
9月に開催された、1968年のル・マン24時間レース。シャルル・ド・ゴール政権に対する若者の不満が爆発した五月革命の混乱で、その年は6月から延期されていた。
9月のル・マンは、世界スポーツカー選手権の最終戦も兼ねることになった。ポルシェとフォードによる激しい争いに決着がつく、重要な1戦でもあった。
勝利を掴んだのは、V8エンジンのフォードGT40。興味深いことに、本来はレース後にフォードのモータースポーツ部門チーフへ就任予定だったヨッヘン・ニアパッシュ氏は、ポルシェ908のステアリングホイールを握り3位でゴールしている。
それから20年後、ニアパッシュはメルセデス・ベンツのモータースポーツ復帰を担った。生み出されたザウバー・メルセデスC9は、圧倒的な強さで1989年の世界スポーツ・プロトタイプカー選手権を制している。
彼の業績はレースでの勝利だけではない。メルセデス・ベンツのための、新しいジュニア・ドライバー・プログラムの確立も外せない。最初の育成メンバーだったのが、ミハエル・シューマッハ氏の弟、ラルフ・シューマッハ氏だった。
振り返り始めると、話題に事欠かない経歴を持つニアパッシュ。1972年にフォードを離れ、BMWモータースポーツ社、現在のBMW M社を立ち上げたことでご存じの読者もいらっしゃると思う。
2022年は、その設立50周年。快音を響かせながら思い切り振り回せる、実用的で現実的な価格のMモデルにとって記念すべき年だ。テールスライド自在の、稀代のスポーツ・サルーンが生まれることになったのだから。
メカニック5名で構成されていた当初のM
ハッピーバースデー、M。英国編集部としては、ドイツ・ミュンヘン郊外、ガルヒングにある開発拠点を訪れてお祝いしたいところ。ニュルブルクリンクを経由するロードトリップを通じて、一緒に記念日を喜びたい。
現在は、サーキット・パドックに豪華なトレーラーを並べる規模へ成長したBMW M社だが、最初は小さなチームだった。50年前は、5名のメカニックが属するに過ぎなかったという。キーパーソンのニアパッシュへ振り返っていただこう。
「予想していませんでした。フォードのモータースポーツ部門にいた1971年の末に、自宅へ電話がかかってきたんです。その頃、BMWに在籍していたボブ・ラッツさんからで、BMWのモータースポーツ活動を再編したいという相談でした」
BMWへ移った彼は、CEOのエバーハート・フォン・クーンハイム氏へ、レーシング部門の設立を打診したという。「会社は人間のようなものです」。当時副社長だったラッツは、BMWモータースポーツ社の誕生時に言葉を残している。
「スポーツに力を入れれば、引き締まりパフォーマンスに長けた面白い姿へ変わります」。ルッツは、丁度その時期だと理解していたのだろう。1960年代に発売した新モデル、ノイエ・クラッセがヒットし収益は5倍に伸び、資金には余裕があった。
1968年に発売されたE9型の2800 CSは、欧州ツーリングカー選手権に向けてグループ2マシンへの改良が試みられていた。しかし、エレガントなグランドツアラーを軽量化し、不足ない戦闘力を与えることは簡単ではなかった。