トヨタGR86を”拒んだ”欧州連合の安全規制 「GSR2」とは メーカーから疑問の声も
公開 : 2022.08.09 18:45
今年7月、EUおよび英国で導入が始まった新しい道路安全規制「GSR2」について解説。交通死亡事故ゼロを目指す中で、安全装備の追加を義務付けていますが、販売価格への影響も懸念されています。
事故は減らせるか 新規制導入で製品ラインナップ縮小も
EU(欧州連合)で先月導入された新しい道路安全規制によって、EU加盟国および英国で販売されるすべての新車に、少なくとも20の安全関連技術が追加装備されることになる。
この規制は「一般安全規則2(GSR2)」と名付けられ、従来のGSRを強化したものだ。これにより市販車の開発・販売コストが上がり、価格が上昇する可能性もある。今回の改正は、国連とEUで10年間にわたり議論されてきたもので、EUは2019年に提案をまとめた。
GSR2は、大きく2段階に分けて導入される。最初の導入は7月6日に行われ、次回は2024年を予定している。つまり、2022年7月6日以降にEUおよび英国で発売されているすべての新車は、GSR2に適合しなければならない。そして2024年には、さらなる改良が必要となる。
この2024年の第2段階の導入が、トヨタGR86の命取りとなった。自動速度制御装置(ISA)と緊急車線維持支援システム(ELKS)に必要なカメラ類は、先代モデルの86から引き継がれたアーキテクチャに簡単に組み込むことができないのである。
トヨタはGR86を欧州で発表した際、同市場での販売期間がわずか2年と短いことを明らかにした。「ルーフを上げ、フロントガラスを移動させてカメラを搭載する必要がある」として、対応が困難であることも認めている。
一方、保険業界は当然ながらGSR2の導入にポジティブだ。
英国の保険・安全団体サッチャム・リサーチの責任者で、ユーロNCAP(欧州の自動車安全テスト)のシニアメンバーであるマシュー・アヴェリーは、次のように述べている。
「今回の改正は、基本的に既存の法律の整理であり、1998年からあるGSR1のアップデートです。新しい安全機能の多くは、既存のユーロNCAPのテストにすでに取り入れられています」
GSR2導入の背景には、2020年までに交通事故死者数を半減させ、2050年までに「ゼロに近づける」というEUの取り組みがある。
しかし、自動車業界からは、特定の車種に適用される規制の厳しさと、モデルチェンジや世界的な安全法に合わせてタイムテーブルを調整しようとしないEUの姿勢に対し、懸念を抱く声が上がっている。
フォードのホモロゲーション責任者ドゥエ・カニンガムは、先進緊急ブレーキ(AEB)やISA警告システムなど、一部の安全関連技術については、すでにユーロNCAPの評価に含まれているため「驚きはなかった」としている。しかし、ISAの信頼性については疑問を投げかけた。ISAは道路標識を読み取るカメラに依存しているが、多くの国では標識の整備状態が悪く、検出が困難なのだ。
また、GPSを使った速度制限警告も認められているが、これも地図精度が完璧でなければ十分に機能しない。
そのため、フォードのようなメーカーは、両方のシステムを搭載することを余儀なくされている。しかし、低価格帯の乗用車では、その分部品コストがかさむことになる。
GSR2はすでに法令化されたが、実際に交通事故死を減らす効果があるかどうかは、時間が経たないとわからない。