還暦を迎える英国の名車 BMC ADO16を振り返る モーリス1100/MG1100 前編

公開 : 2022.09.03 07:05

英国の小型ファミリーカーを定義したといえる、ADO16シリーズ。6ブランドから展開された名車を、英国編集部が振り返ります。

ADO16シリーズの誕生から60年

1962年8月15日。たくさんの期待を背負った新モデルが、ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)から発売された。「新鮮で先進的で、胸躍るような名案」といった内容のキャッチコピーとともに。

市場のニーズを理解し、ベストといえるタイミングでディーラーに並んだ、ADO16シリーズの第1弾となるモーリス1100だ。当時の自動車メディアは、驚くような数が売れなければ世の中がおかしい、とさえ評価した。

手前からフレイム・レッドのオースチン1300 GTとブラックのモーリス1100、スカイブルーのライレー1300 MkII、ベージュのモーリス1100 トラベラー、ブラウンのヴァンデンプラ・プリンセス1100、ブラックのMG 1100、ブラックとホワイトのオースチン・アパッチ MkII、グリーンとホワイトのウーズレー1100
手前からフレイム・レッドのオースチン1300 GTとブラックのモーリス1100、スカイブルーのライレー1300 MkII、ベージュのモーリス1100 トラベラー、ブラウンのヴァンデンプラ・プリンセス1100、ブラックのMG 1100、ブラックとホワイトのオースチン・アパッチ MkII、グリーンとホワイトのウーズレー1100

ADO16シリーズは複数ブランドからモデル展開が進められ、大方の予想通り、長期間英国のベストセラーに君臨した。ビートルズの登場で若者文化に火が付き、世界へと波及していた1960年代。社会的な雰囲気を、見事に捉えていたといえる。

2022年は、ADO16シリーズの登場から60年に当たる。英国の自動車史を振り返っても、特に重要なモデルとして位置づけられる記念すべき生誕を、AUTOCARとして祝わずにはいられない。

そこで今回は、モーリス1100や1300が生産されたグレートブリテン島中南部のカウリーに、8台を集めてみた。BMC内での闘争や混迷したマーケティングなど、ADO16シリーズが巻き起こした様々な事象も思い返されるラインナップといっていいだろう。

オースティンにMG、モーリス、ライレー、ヴァンデンプラ、ウーズレー。1つの親会社に属する6つのブランドから、独自性を持たせたと主張される近似モデルが並行して販売され、ロンドンの街には溢れていた。

重要性に唸らされるモーリス1100

改めてモーリス1100に対面すると、自動車としての重要性に唸らされてしまう。スタイリングを手掛けたのはイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナ社。フロントに横置きされるのは、特徴的なノイズを響かせる4気筒エンジンのAシリーズだ。

まだ珍しかった前輪駆動レイアウトを採用し、広い車内を実現していた。一緒に点滅するウインカーレバーの先端といった、細部にも見入ってしまう。

ブラックのモーリス1100、フレイム・レッドのオースチン1300 GT、ブラックとホワイトのオースチン・アパッチ MkII
ブラックのモーリス1100、フレイム・レッドのオースチン1300 GT、ブラックとホワイトのオースチン・アパッチ MkII

専用フルードとゴム製シリンダーを用いたハイドロラスティック・サスペンションを考案したのは、技術者のアレックス・モールトン氏。フロントとリアが相互接続され、乗り心地と姿勢制御を両立させるという先進的な技術といえた。

当時のモータースポーツ誌は、次のように褒め称えている。「英国だけでなく欧州全土のライバルを打ち負かす、小さななクルマです」

ブラックの1963年式モーリス1100を大切に乗っているのは、ウィリアム・デイビス氏。両親が所有していた1972年式オースチン・カントリーマンMkIIIとの思い出が転じて、自身もADO16シリーズの虜になってしまったらしい。

「ADO16の走りで最も共感している部分が、ハイドロラスティック・サスペンションの乗り心地。トランスミッションの甲高いノイズも好きです。わたしのモーリス1100は4ドアですが、シートはフロント側に倒れるんですよ」。と話すデイビス。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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