リグニンって何だ? 密かに注目集める革新的素材 自動車業界を変えるかも

公開 : 2022.08.31 06:05

木に由来するリグニンという物質が、自動車業界で注目され始めています。炭素系製品の代替として、バッテリー材料やバイオ燃料、さらに道路の舗装にも利用できるとのことです。

電池からアスファルトまで 多用途な持続可能素材

リグニンは、木本植物(要するに木)の細胞壁の間に存在する持続可能な物質で、製紙産業における副産物でもある。

あまり知られていない素材だが、炭素繊維やバッテリーのアノードなど、炭素系製品の代替材料として以前から研究が進められてきた。サステナビリティの観点からも、リグニンは画期的な素材となる可能性がある。

リグニンの用途として、バッテリー素材の他にもABS樹脂の代替品やアスファルトのバインダーなどが研究されている。
リグニンの用途として、バッテリー素材の他にもABS樹脂の代替品やアスファルトのバインダーなどが研究されている。

昨年、AUTOCARはリグニンについて、フィンランドのStora Enso社と、インペリアル・カレッジ・ロンドンによる研究を取り上げた。その後、Stora Enso社が、欧州のバッテリー製造会社であるノースボルト社とパートナーシップを結んだというニュースもあった。

ノースボルト社は、Stora Enso社のリグニン系ハードカーボンのアノード材「Lignode」を使用してバッテリーセルを製造し、最終的には北欧の森林から調達した原材料により持続可能な製造へと移行する予定だ。この製造が開始されれば、欧州産の原材料のみから作られた初めての量産バッテリーとなる。

2015年、Stora Enso社はフィンランドのコトカに、リグニンを製造するためのパイロットプラントを設立した。現在、同プラントはこの種のものとしては世界最大で、木材を木材パルプにする「クラフト(Kraft)」工程からその名を取った「クラフトリグニン」を、年間5万トンの割合で抽出することが可能である。

木は20~30%がリグニンからできているため、資源を豊富に有する素材である。抽出されたリグニンは、バッテリーのアノードや複合繊維などさまざまな用途に利用できるように手が加えられる。

自動車の世界では、他にもリグニンの用途がいくつか考えられる。バイオ燃料の開発会社であるRenfuel社は、リグニンを原料とするバイオオイル「リグノール(Lignol)」を製造しており、これを精製してバイオガソリンやバイオディーゼル燃料を作ることができる。

バイオ燃料は、内燃機関を搭載した自動車から発生するCO2の量を削減する方法として注目を集めている。Renfuel社は、リグノールを使用することでCO2を90%削減でき、化石由来の石油を完全に、あるいは部分的に代替することができると謳っている。化石燃料と同等のエネルギー密度を持ち、エタノールなどのアルコール燃料よりも冬場の性能が高いという。内燃機関の変更なしに使用できるドロップイン燃料として、従来の燃料と同じコストで生産することも可能だとしている。

リグニンの用途は他にもある。Prisma Renewable Composites社は、自動車の内装によく使われるアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン・プラスチック(通称ABS樹脂)の代替品の製造に利用している。従来のABS樹脂よりも引張強度が高く、紫外線に対する耐性に優れているという。

Stora Enso社はまた、原油ベースのアスファルトに代わるバインダーとして、「Lineo」という素材も製造している。リグニンがいつか、自動車の製造や動力源に革命を起こすだけでなく、自動車が走る道路の二酸化炭素排出量を削減する日が来るかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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