まだ気づいていない? フェラーリ初SUV「真の価値」 遅れて登場の「必然性」 考察

公開 : 2022.09.14 19:45

フェラーリ・プロサングエが話題です。伝統あるスポーツカーブランドが今、SUVを出したことの意義を考察します。

フェラーリがSUVをつくったという事実

F1グランプリの世界では朝令暮改が当たり前だ。

「われわれが背の高いモデルをつくるようなことはない」と頑なに言い続けてきたフェラーリが手のひらを返したとして、失望する人などいるのだろうか?

フェラーリ・プロサングエ
フェラーリ・プロサングエ    フェラーリ

F1最古のコンストラクターであり、プレミアム・スーパースポーツ界の絶対王者が、突如としてSUVモデルを発表。

だが一連のアクションは、彼らの常識に則ったものに過ぎないのである。

フェラーリによれば、プロサングエはクロスオーバーSUVでもシューティングブレークでもなく、これまで彼らがつくってきたモデルと同じスポーツカーなのだという。

たしかに「スポーツカー」という言葉に確たる定義はないし、フェラーリのアーカイブを振り返れば、いつの時代も4シーターの「スポーツカー」が存在していた事実はある。

さらにハイブリッドやAWDにですら、現在の彼らのアーカイブにはあるのだ。

プロサングエのスペックを見ていて感心させられたのは、V12エンジンがフロントミッドに搭載されていること。

6.5L自然吸気のF140系V12エンジンは2002年のエンツォ・フェラーリでデビューし、812スーパーファストにも搭載されていたフェラーリ自製の銘機である。

それと同時に、フェラーリとしては当たり前ともいえる「エンジン自製」という事実を今という時代と照らし合わせた時、このスポーツカーの真の価値が見えてくるのである

「分厚い跳ね馬」にあって他にないもの

現代の自動車作りはメーカーの歴史や個性よりも、さまざまなルールやコスト、効率の方が優先され、おおよそのスペックを決めている。

その結果として浸透した考え方がモジュラー=共通規格であり、それはシャシーにもパワートレインの側にも当てはまっている。

フェラーリ・プロサングエは6.5L自然吸気のF140系V12エンジンを搭載
フェラーリ・プロサングエは6.5L自然吸気のF140系V12エンジンを搭載    フェラーリ

フタを開けてみると実は流用品……、といって一部のマニアが残念がっていたのは20世紀までの話。

ブランドの格としてはフェラーリ以上というメーカーであっても、21世紀の自動車世界でモジュラーの呪縛から逃れることはできないのである。

そういった世の中の自動車づくりの常識を踏まえたうえで「史上最も分厚い跳ね馬」を眺めてみると、フェラーリというメイクスの構造的に孤高、そして神聖ともいえる立ち位置が浮き彫りになってくる。

これはわかりやすく例えると、ポルシェカイエンに911用の水平対向6気筒エンジンが搭載されていたら? と考えるとわかりやすいと思う。

現実的には効率や構造的などあらゆる点で実現は難しいと思われるのだが、しかしこれこそクルマ好きが好む理想的なストーリーに違いないのだ。

F1グランプリにおける功績や、プロダクションモデルに込められた官能的ともいえる動的質感など、フェラーリブランドを神格化する要素は数多ある。

だが構造的な出自、オリジナリティという見地から精査した場合でも、フェラーリ以上に高尚なスポーツカーブランドは存在しないのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 編集

    上野太朗

    Taro Ueno

    1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測というエリート・コース(?)を歩む。学生時代はボルボ940→アルファ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ156→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かす。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。

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