TASV フェラーリ初のSUVに搭載された「革新的」なサスペンションとは
公開 : 2022.10.11 21:05
フェラーリ・プロサングエで採用されたアダプティブ・サスペンションシステム「TASV」とは、どのようなものなのか。走りや乗り心地に影響を与える革新的な装置について紹介します。
圧縮と伸縮を瞬時に行う あらゆる走行条件に対応
クルマの個性を構成するあらゆる要素の中で、乗り心地とハンドリングは、まさにその筆頭と言えるだろう。クルマのフィーリング、快適性、気持ちよさ、そしてドライバーへのフィードバックは、この2つが大きな役割を果たしている。
ドライブトレインは時代とともに大きく変化しているが、サスペンションの基本はほとんど変わらない。地面から距離を置き、段差を乗り越えるためのスプリングと、その動揺を鎮めるダンパーからなる。フェラーリのSUV「プロサングエ」に搭載されたマルチマティック社のTASV(トゥルー・アクティブ・スプール・バルブ)は、その最新技術の1つである。
サスペンションには大きく分けて、パッシブ型とアダプティブ型の2種類がある。パッシブ型は、おなじみのコイルやトーションバー、リーフなどが挙げられる。最近のパッシブダンパーは、チューブ内に充填されたガスやオイルによって振動や衝撃に対応するものが主流だ。パッシブダンパーの設計や効果には目を見張るものがあるが、決してスマートとはいえない。
アダプティブダンパーの場合はその逆で、電子制御によって抵抗力や応答性を瞬時に変化させることができる。電子制御された内部バルブでこれを行うものもあるが、マグネライド・システム(デルファイ社製)は、磁気粘性流体という名称の流体でこれを行う。電磁気に反応して、いわゆる「硬さ」が変化するのだ。アダプティブ型(またはアクティブ型)には、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツなどの高級車ブランドが採用しているエアサスペンションもある。
マルチマティック社はTASVを、「ダンパーの役割を再定義し、サスペンションを車体全体を動かすのに十分な力を発揮できるアクティブなシステムに変える」と述べている。例えば、路面の段差が近づいてきたり、ドライバーがステアリングを操作したり、ブレーキを踏もうとするのを検知すると、サスペンションはその力を発揮する。
TASVシステムのスプールバルブは、圧縮と伸縮を瞬時に調整する魔法のような仕組みだ。また、スプリングと連動して車体の横揺れを抑える力が働くので、物理的なアンチロールバーが不要になる。マルチマティック社は、このシステムが他のアダプティブシステムやセミアクティブシステムよりも高い周波数で、強力にホイールモーションを制御するとしている。
ダンパーには、ビークルダイナミクスコントローラーと連動した制御モジュールが組み込まれており、加速時やブレーキ時に前後方向のピッチを変えたり(フラットな状態を保つ)、アンダーステアやオーバーステアにも影響を与える。あらゆる走行条件に対応する、スマートなシステムとなっている。