ルノーによる日産への出資比率引き下げ なぜ今? 着地点はどこか?
公開 : 2022.10.13 12:01 更新 : 2022.10.13 12:16
ルノーが日産の資本内に占める持合い比率を下げる可能性が報じられ始めました。なぜ今? 着地点は?
ルノーが日産資本内の持合い比率を下げる
連休中から週初にかけて、ルノーが日産の資本内に占める持合い比率を下げる可能性が報じられ始めた。
日仏いずれの自動車メーカーもパーツ供給難などで足元の業績は決して芳しくなく、またロシア事業を手放さざるを得ない状況の中で、なぜこの話が持ち上がったか、不思議に思われる向きも多いだろう。
日産がルノーに対して要請しているとされる具体的な数字は、現在の43.4%から15%。
15%というのは、日産が保有するルノー株の割合15%と同じだが、日産の時価総額は約1兆9000億円に対して、ルノーは約1兆2700億円。
数年前ほど2社の資本規模に差がないのは、昨今の円安による。
だからこそ、F1鈴鹿の時期にルノーのルカ・デ・メオCEOが来日し、横浜で日産の内田CEOと会談するという流れが、具体的にこのタイミングで、円安を追い風に出来上がったと見える。
決定的でなくても円安は1つの外的要因だ。
単に資本の持合いを同等に正す「不平等条約改正」だけが、日産の悲願ではなさそうだ。
力関係をよりややこしくした日仏の会社法
ルノーの業績における収益のかなりの割合を日産株の配当が占めていたのは事実で、20数年来の配当受取額は1兆円前後、これは1999年の買収額の7000億円強を超えている。
加えて、議決権の問題が、アライアンス内での力関係をよりややこしくしてきたのは確かだ。
フランスの会社法では40%以上の株を握る親会社に対し、握られている子会社は親会社に対する議決権を行使できない。
逆に日本の会社法では、子会社の親会社への出資比率が25%を上回れば、後者の議決権は消滅する。
日産のルノー株買い増しが1つのオプションとして検討されてきたのはそのためだが、円安を背景に、直近のルノーの財政事情の逼迫と、今後のアライアンスの電動化戦略といった、複数の要素がもろもろ絡まって、現実的にルノーが出資比率の引き下げを受け入れようとしている、というところだ。
ルノーが日産株を30%弱ほど手放すことで得られる売却益は、約5600億円にのぼる。
落としどころはどのあたりにあるのか?
日仏間の話し合いは8月末から加速していたと、欧米の経済紙では報じられているので、おそらく現段階では、ルカ・デ・メオCEOが内田CEOと話し合った内容をフランスに持ち帰り、アライアンスの会長であるジャン・ドミニク・スナール氏と財務ディレクターのクロチルド・デルボス氏が精査しつつ、ルノー株を15%もつフランス政府への説明と反応をうかがう、といったところだろう。
10月中旬にはパリ・モーターショーそして11月8日には日産の上期決算発表を控える以上、それまでに何らかの発表があるはず、というのが欧米のメディアの見立てだ。
いわば合意待ちの段階でアジェンダは策定済み、という見方だ。
というのも、フランス政府がノーと言いにくい状況もある。初夏より報じられてきた通り、ルノーはEVと内燃機関、それぞれの事業を分社化しようとしている。
リサイクルやリユース、ソフトウェア開発をも含む前者の事業は「アンペール(電流の単位を示すアンペアのこと)に。
後者の方は「HORSE(ホースまたはオルス)」という新会社にまとめ、EV事業はノルマンディやフランス北部の従来の生産拠点を転用しつつ、新たな雇用を生むとしている。
国内の雇用創出は無論、確保こそが目的であるフランス政府が、この戦略に真っ向からノーを唱えられる可能性は限りなく低く、日産の配当が3分の1になってもルノー・グループの収益性が確保されるかが条件になるだろう。
ちなみに後者の内燃機関事業、ホースではルノーは中国のジーリーホールディングとサウジアラムコと協業を模索中。
ただし内燃機関の技術自体に日産の知的財産権が多々含まれているといわれ、こちらについても日産との調整が要るといわれる。
しかもEV新会社についても、ルノーは日産と三菱に出資と参加を求めており、15%への出資比率引き下げは、日産のアンペール参画が条件になっている可能性はゼロではないだろう。