課題山積み 電気自動車との付き合い方を考える 持続可能な社会目指す英国の事例
公開 : 2022.11.07 18:05
EV(電気自動車)にはまだまだ課題が多く残されています。2030年にエンジン車の新車販売を禁止する英国では、クルマの電動化を進めるためにどのような取り組みを行っているのか。現在の状況や今後の見通しを紹介します。
もくじ
ーEV普及を急ぐ英国の動向
ーEVでの長距離運転は
ーライフサイクル全体が重要
ー大規模な洋上風力発電所
ー再生可能エネルギーはどうやって作っているの?
ーEVでお金を稼げるようになる?
ー運転習慣の変化が送電網に影響を与える?
EV普及を急ぐ英国の動向
バッテリー式電気自動車(BEV)の普及はまだ始まったばかりで、今後も着実に増加し続けるだろう。最近の研究では、バッテリーの製造から使用後までを考慮した場合、従来のパワートレインや代替パワートレインよりも温室効果ガスや環境に対する影響が少ないという見方もある。この点については反論の余地もあるかもしれないが、エネルギー需要と充電キャパシティの重要性がこれまで以上にクローズアップされていることは間違いない。
何万台ものEVを同時に充電できるキャパシティがあるかどうかや、膨大な規模のインフラ整備、公共充電器の信頼性の確保など、巷ではさまざまな議論がかわされている。他国に先駆けて電動化に舵を切った英国は、こうした諸問題についてどのように向き合っているのか見ていきたい。
まず、英国における電力需要はここ数年来、減少傾向にある。過去数十年で最も需要が多かったのは2002年の62GWで、これをピークに減少を続け、現在は50GW強まで下がっている。英国の送電大手ナショナル・グリッドは、国中の自動車が仮に一晩でEVに切り替わったとしても、全体の需要の増加は10%に過ぎないと推定している。
今年は感染症対策により、需要はさらに5%減少し、ナショナル・グリッドESO(電力系統運営会社)は、今年の冬のピーク需要を44.7GWと予測している。
EVでの長距離運転は
近年、英国で販売される家庭用充電器はすべて、地域の配電網が充電を行う時間をある程度制御できるように、「スマート充電(smart charging)」機能を装備しなければならなくなった。これにより、午後6時から午後8時の間のピーク需要を管理できる。
しかし、EVの増加に対応するために大きく変わるのは、公共の場での充電であろう。家庭での充電が多いというデータもあるが、バッテリー容量がどんどん増えていく中、長距離走行もEVで、という人は増えているはずだ。2040年までに3600万台(ナショナル・グリッドが現在想定している台数)が従来のエンジン車からバッテリーEVに代わるとすれば、その用途が近所の買い物や通勤にとどまらないことは明らかである。
英国で販売されている3万5千ポンド(約580万円)前後の一般的なEVは、80%の充電残量でも320km以上走行することが現実的に可能である。ナショナル・グリッドは、公共の充電ネットワークが不十分だと、航続距離への不安からEVの普及が阻害されると考えている。
同社によると、52%のドライバーはEVの長距離運転に不安を感じているといい、その解決策として、高速道路のサービスエリアに50か所の超高速充電器ネットワークを設置することを提案している。超高速充電器は、対応車種であれば5分から12分で充電することが可能である。この提案については現在、高速道路のサービス事業者と協議が続けられているところだ。50か所の充電ネットワーク設置にかかる費用は、5億ポンド(約830億円)から10億ポンド(約1650億円)と推定される。この費用は、自動車税や電気代、その他の課税により賄われるだろう。