小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 前編

公開 : 2022.11.20 07:05

小柄なボディに大排気量のV12エンジン。ブランドの象徴といえる、アナログなグランドツアラーを英国編集部がご紹介します。

全身の感覚を目覚めさせる存在

視覚は凸型の好戦的なフロントグリルと、何本ものスリットが切られたカーボンファイバー製ボンネットに奪われる。聴覚は、周囲に充満するV型12気筒エンジンの唸りに圧倒される。

2009年に発売されたV12ヴァンテージは、今でも全身の感覚を目覚めさせる存在だ。アストン マーティンの再興、ルネッサンスを一歩前進させた傑作でもある。

シルバーのアストン マーティンV12ヴァンテージと、ブラックのアストン マーティンV12ヴァンテージ S
シルバーのアストン マーティンV12ヴァンテージと、ブラックのアストン マーティンV12ヴァンテージ S

堅牢なアルミニウム製プラットフォームへ積まれたエンジンの最高出力は、自然吸気でありながら500psを凌駕。油圧アシストのパワーステアリングと、マニュアルのトランスミッションが組み合わされ、アスファルト上で鮮烈な運転体験を呼び起こした。

21世紀初頭の10年間には、最高のドライバーズカーといえる上級モデルが何台か登場している。997型のポルシェ911フェラーリ458 イタリア、ロータスエヴォーラなどが数えられるが、V12ヴァンテージも間違いなくその1台に当てはまる。

DB7の成功を受け継ぐように登場した2004年のDB9と、V12よりひと足先にV8エンジンを載せて2005年に登場したV8ヴァンテージは、ブランドの重要な新世代といえた。1991年以降はフォード傘下にあり、量産体制も整えられていた。

1999年までにジャガーランドローバーボルボも買収していたフォードは、上位ブランドによるプレミア・オートモーティブ・グループ(PAG)を編成。マーキュリーやリンカーンといった従来ブランドともに、ビジネス拡大を狙っていた。

DB9のV12エンジンをヴァンテージに

事業推進のため、ドイツの自動車業界で活躍する有力者も招聘した。BMWで活躍していた、ヴォルフガング・ライツレ氏もその1人。2000年からアストン マーティンを率いたのは、BMWだけでなくポルシェでも能力を発揮したウルリッヒ・ベズ氏だ。

フォードが期待した幅広いモデル展開に応えるため、ベズは新しいアルミニウム製シャシーの開発に着手。多様性に長けた、軽量・高性能なVHプラットフォームを創出する。

アストン マーティンV12ヴァンテージ(2009〜2013年/英国仕様)
アストン マーティンV12ヴァンテージ(2009〜2013年/英国仕様)

グレートブリテン島の中南部、ニューポート・パグネルの工場で2001年から生産されていた初代V12ヴァンキッシュは2007年に終了。その西、ゲイドンに竣工した新しい工場で、交代するようにV8ヴァンテージの生産がスタートした。

だが、ブランドに流れる血は変わっていなかった。DB9の5.9L V型12気筒エンジンを、ひと回り小さいヴァンテージへ押し込もうというアイデアが実を結ぶまで、長い時間は必要なかったようだ。

V8ヴァンテージは、VHプラットフォームをDB9と共有しており、実現は不可能ではなかった。それでも、フロントまわりの構造には大幅に手を加える必要があった。

V12エンジンは、そのまま収まるサイズでもなかった。オイルサンプが15mm削られ、オイルフィルターは右側へ移動されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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