ウクライナまで救急車で物資を届ける旅 ボランティアの難しさと支援の現状

公開 : 2022.11.12 06:05

英国からウクライナまで、3台の救急車と医療物資を運ぶボランティアに参加しました。必要なものを必要な人へ届ける。シンプルな活動ですが、片道1900kmの道のりは、決して簡単なものではありませんでした。

英国からウクライナまで救急車を運ぶ

午前6時半。ポーランド東部のクラクフにあるホテルから、筆者はサイモン・ブレイクという友人とともに、サーシャに会うために歩き出した。

黒いトヨタランドクルーザーからサーシャが降りてくる。ウクライナ人で、身長185cmくらい、がっしりした体格だ。英語はほとんど話せず、わたし達もウクライナ語はまったく話せない。しかし、彼は信頼できる友人の、信頼できる友人である。サイモンとボランティアたちが、戦争で破壊されたウクライナに寄付するためにクラクフまで運んできた救急車3台のうちの1台に乗って、ウクライナ西部のリヴィウまで一緒に行ってくれる。残りの2台は、サイモンと筆者が運転する予定だ。

出発前、マイティ・コンボイのボランティアメンバーと記念撮影。
出発前、マイティ・コンボイのボランティアメンバーと記念撮影。    AUTOCAR

スマートフォンの翻訳アプリを通じて、サーシャが教えてくれた。「国境の数km手前で高速道路を降り、森を抜けて国境まで北上する。心配はいらないよ」と。

すべての始まり

サイモンの「旅」は数か月前、約1900km離れた英ミドルセックス州テディントンから始まった。2月にロシアがウクライナに侵攻した直後、サイモンの町に住むウクライナ人たちは、地元のソーシャルメディアを使って資金を集め、数台の4WD車をウクライナに運ぶボランティア探しに動き出した。サイモンはクラクフまで4WD車を走らせ、今度は救急車で行こうという計画を立てて帰ってくると、そのための資金集めを開始。私財を投げうって設立した資金調達会社を、マイティ・コンボイ(Mighty Convoy)と名付けた。

「非営利の会社で、現在、慈善団体としての認可を申請中だ。誰も雇わず、ボランティアだけでやっていくつもりだよ」とサイモンは語る。

春から夏にかけて、マイティ・コンボイはウクライナの仲間と協力し、救急車3台を購入するのに必要な資金を集めた。しかし、購入や運搬は、そう簡単ではない。

救急車を調達する

英ウスターシャー州ダドリーのSVS(Specialist Vehicle Solutions)社は、救急車を専門に扱っている自動車販売会社で、約8年落ちの中古車を1台あたり6500ポンド(約110万円)で3台販売してくれた。

SVS社のオーナーのスティーブ・マニング氏は、「戦争が始まってから、いくつかのチャリティー団体と知り合いになったんだ。お金はあるけど、どう使えばいいかわからない人もいる」と話す。

サイモンは、英国で3台の中古の救急車を調達。これに支援物資を載せてウクライナへ運ぶ。
サイモンは、英国で3台の中古の救急車を調達。これに支援物資を載せてウクライナへ運ぶ。    AUTOCAR

また、自動車業界の中には、ボランティアに気前よく接してくれない人もいるという。ボランティアは壊れたクルマを売りつけられたり、登録書類や車両の輸出入に必要な手続きが足りないままウクライナへ向かってしまったりする(この場合は引き返さざるをえない)こともあるそうだ。

3月以降、SVS社は「40台近く」の車両を販売した。そのほとんどは救急車とバンで、ウクライナへ運ばれていったという。サイモンの購入した3台は、自動車整備工場が無償で点検してくれた。

SVS社では、救急車がウクライナで直面する過酷な環境下でもトラブルなく旅を続けられるように、排気ガス再循環装置や微粒子フィルターの電子回路を取り外したり、バイパスしたり(無効化)することがよくあるそうだ。「うまく走らなくなる原因の半分以上はこれさ」とスティーブ氏。

もっと手の込んだ改造として、救急車の空気圧式リアスロープやエアサスペンションを取り外すこともできる。ウクライナでは静かな空気圧式よりも、素早く展開・収納できる手動式が好まれるそうだ。

支援物資のチェックリスト

出発の前に、救急車に支援物資が積み込まれる。松葉杖や車椅子、ビタミン剤、手袋、ウェットティッシュ、手術用具、そして外傷を治療するためのた個人用応急処置キットなど、すべてが医療用であり、すべてが価値あるものである。応急処置キットは1つ100ポンド(約1万6000円)で、40個入りの箱が4つある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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