高出力で環境負荷も低い水素エンジン ポルシェが作る4.4L V8 特殊なターボの仕組みとは
公開 : 2022.11.18 06:05
ポルシェは、最高出力598psの4.4L V8水素エンジンを開発しています。F1の技術も取り入れた特殊なターボを搭載し、環境負荷の低減と高出力の実現を目指します。
F1技術も応用 高出力のV8水素エンジン
ポルシェは今年8月、高性能車向けの水素エンジンの開発で話題となった。水素に関する今日の研究のほとんどは、比較的低出力の商用車に集中しているが、ポルシェが開発に取り組んでいるのは、4.4L V8エンジンで最高出力598psを発生させるという野心的なものだ。
水素はガソリンの4倍近いエネルギーを含んでいるが、気体であるため体積効率はずっと低い。自然吸気エンジンの場合、どれだけ多くの気体(空気)を取り込むことができるかが重要なポイントになるが、水素を内燃エンジンに使用した場合、その効果はあまり期待できない。液体で保存しても、エンジンの中で気体に戻らなければならないからだ。
この問題を回避する方法は、従来のエンジンと同じで、吸気圧を上げることである。ガソリンエンジンが燃やせる燃料の量は、取り込める酸素の量に依存するため、ターボやスーパーチャージャーなどのコンプレッサーで吸気圧を上げることで、より大きなパワーを生み出すことができる。
これを水素エンジンにも応用できればいいのだが、難易度ははるかに高い。ポルシェのシミュレーションでは、水素を燃料とするV8エンジンからガソリンエンジンと同等のパワーを得るために、標準を大きく上回る高性能なターボチャージャーが必要とされた。一般的なガソリンエンジン用ターボチャージャーに比べ、重量比で約2倍の空気量を供給できるシステムが必要だったのだ。
この難題に対する答えは、F1で使われている技術と、強力な電動ブーストターボチャージャーにあった。ポルシェの技術者たちは、電動アシスト排気ガスターボ(eターボ)と排気システムから独立したeコンプレッサーを使って、4種類のレイアウトをシミュレーションした。
1つ目は、シリンダーバンクごとにeターボとeコンプレッサーを使用するパラレルシステムである。2つ目は、eターボとeコンプレッサーを連動させた2段圧縮方式。3つ目は、各バンクに1つずつeターボを搭載し、ガイドベーンで効率を上げるというもの。4つ目に選ばれたシステム(写真)は、各バンクに1基ずつeターボを搭載し、それぞれにデュアルコンプレッサーを備えたものである。
機械的には非常にシンプルだが、空気が通るルートはかなり複雑である。吸入空気はまず1つ目のコンプレッサーで加圧され、インタークーラーを経て、2つ目のコンプレッサーに送られる。この仕組みは効果を発揮し、ポルシェによると、仮想空間ではガソリン車と「ほぼ」同等のパワーを得ることができたという。
4.4L V8水素エンジンは車重2650kgの仮想のテスト車両に搭載され、ニュルブルクリンクで8分20秒2のラップタイムを叩き出し、排出ガスレベルはユーロ7を大幅に下回ったそうだ。ポルシェは、このテスト車両のベースとなったモデルについては明らかにしていないが、不思議なことに、このベース車両も4.4L V8エンジンも、ポルシェの市販車には直接関係していないようである。
まだ市販化の計画はないが、この水素エンジンは高性能のスポーツカーにおいて、バッテリーに代わる持続可能な手段が存在することを示すものである。