フォルクスワーゲン、EV戦略見直しへ MEBプラットフォームの使用延長か
公開 : 2022.12.05 06:05
フォルクスワーゲン・グループは、EV用プラットフォーム「MEB」を当初の計画よりも長く使用する意向を示しています。電動化戦略に大きな見直しが入ると考えられます。
MEB構造の使用延長 コスト効率重視で改良へ
フォルクスワーゲン・グループは、2030年までのEV戦略を根本的に見直し、EV用プラットフォーム「MEB(Modularer E-Antriebs Baukasten)」を当初の計画より長く使用する可能性が明らかになった。ドイツのFAZ紙が報じた。
MEBには新たに15億ユーロ(約2100億円)とされる資金が投じられ、より高度なバッテリーセル、パワーエレクトロニクス、インバータ技術などの開発を加速させる。グループ前CEOのヘルベルト・ディースによって開始された既存戦略は見直しが進められ、大部分はさらなる再検討のために保留されている状態だという。
2018年に導入されたMEBは、現在、フォルクスワーゲン・グループが計画するEVモデルにさらなる競争力、規模の経済性、生産効率、収益性をもたらす中心的な「柱」であるとされている。当初、MEBは2020年代後半にかけて段階的に廃止し、次世代のSSP(Scaleable Systems Platform)に切り替える計画だったが、再投資により寿命が引き伸ばされる形だ。
社内ではすでに、SSPで当初想定されていたバッテリーセル技術を、「MEB-EVO」と呼ばれる改良型のMEBプラットフォームに統合するための措置を開始したとされている。これは、コスト削減のためにグループ全体でセルの仕様を統一する「ユニファイドセル」という考え方に基づくもの。
フォルクスワーゲン・グループは、2022年9月末までに36万6000台のEVを販売した。セル統一によるコスト削減効果は少なくないだろう。
充電も高速化 SSP導入は延期の見通し
MEBのその他の変更点としては、充電容量の増加が挙げられる。正式な発表はないが、FAZ紙が引用した内部文書によると、改良型MEBは175kWから200kWの充電速度に対応するという。現在のMEBベースのモデルは最大135kWにとどまる。
バッテリー電圧に関しては、コストの観点から従来の400Vを引き継ぐと予想されている。次世代SSPは800Vバッテリーに対応し、最大350kWの充電を可能にするとされているが、導入は早くても2028年まで延期されることになる。
フォルクスワーゲンブランドのCEOであるトーマス・シェーファーは、11月に開催されたロサンゼルス・オートショーでAUTOCARの取材に対し、次のように語っていた。
「何をいつ実現できるのか、100%はわかりません。現時点でわかっているのは、例えば2年単位ですべてが少しずつ後ろにずれていくということです」
フォルクスワーゲンのドイツ・ヴォルフスブルク本社に近いワルメナウに、SSPモデル専用の生産工場を新設する計画も一旦中止され、最大20億ユーロ(約2800億円)の節約になると言われている。
MEBは現在、フォルクスワーゲンID.3、ID.4、ID.5、中国市場向けのID.6、さらに最近導入したID.Buzzのほか、アウディQ4 eトロン、スコダ・エンヤク、クプラ・ボーンなどに使用されている。さらに、セダンやSUV、クロスオーバー、ハッチバックなど複数の新型車が計画中だ。
また、ホイールベースを短くし、バッテリーモジュールを小型化した「MEB-Small」が、フォルクスワーゲン、クプラ、スコダの3ブランドで開発中のハッチバックおよびクロスオーバーに採用され、現在の計画では2025年に生産開始となる見通しである。
MEBベースのモデルは現在、ドイツやチェコの欧州6工場のほか、上海の上海汽車、長春のFAWとの合弁事業で中国で生産されている。2023年には、ドイツに生産拠点が2か所追加される予定。また、新たにJACとの合弁事業で中国・安徽省で生産する計画もある。
先日、オリバー・ブルーメCEOがフォルクスワーゲンの米テネシー州チャタヌーガ工場を訪問したことで、米国でも生産されるのではないかとの見方も出ている。