かつてないほど高効率? 独ZFが開発した次世代電動パワートレインの中身とは

公開 : 2022.12.13 06:45

ドイツの大手自動車部品メーカー、ZF社は、斬新な設計により高効率を実現したという次世代電動パワートレインを発表しました。EVの技術がまた一歩、前進するかもしれません。

斬新な設計で効率化 2025年より市場投入

大手自動車部品メーカーであるZF(ゼット・エフ)社は、新世代のモジュール式電気駆動装置(電動パワートレイン)を発表した。

新設計の電動モーター・ジェネレーター、新タイプのEVトランスミッション、インバーター(ACモーターとDCバッテリーの間に位置するパワーエレクトロニクス)、そしてそれらを統合するソフトウェアなど、主要自動車メーカー向けに2025年から供給される予定だ。

ZF社は、モーターの冷却性能、省スペース・軽量設計などにより高効率を実現。重希土類(レアアース)の仕様も従来の1%に抑えた。
ZF社は、モーターの冷却性能、省スペース・軽量設計などにより高効率を実現。重希土類(レアアース)の仕様も従来の1%に抑えた。    ZF

まず、モーターから見ていきたい。モーターは、従来品よりも小型で高効率、持続可能性にも優れ、高出力(サイズと重量に対して強力)、そして手頃な価格で製造できるという。

その主張の根拠となっているのは斬新なデザインで、例えば、銅の巻線の冷却技術と設計はまったく新しいものだ。

永久磁石モーターの固定子(動かない部分、電磁界を発生させる銅の巻線が入っている)の周りには冷却用のウォータージャケットがあるのだが、そのさらに奥にも溝がある。この溝は、電気を通さない冷却用オイル「ゼット・エコフリュードE」を流し、巻線に直接触れさせて熱を回収するためのものである。

これにより、モーターの連続出力はピーク出力の約85%まで向上したという。重希土類の使用を1%にまで削減できたのも、冷却性の向上によるものだ。

巻線の設計も変わり、ヘアピンのようにワイヤーを何百本も溶接してつなげた「ヘアピン方式」から脱却。溶接箇所が24箇所と少ない、編み組み式巻線技術を新たに開発した。巻線ヘッドも28mmから15mmに小型化し、設置スペースを削減。全体で10%小型化し、パワーとトルクの密度を高めるとともに、原材料の使用量を10%削減した。

トランスミッションの設計も、これまでの常識から大きく逸脱している。2011年以降、ZF社のEV用トランスミッションは、モーターの高回転を1段目と2段目で減速する、ごく一般的な2段式ギアで構成されている。そして、別のディファレンシャル(差動装置)を介して車輪に駆動力を伝達するのが従来のシステムだ。

新たに開発されたトランスミッションは、2つのプラネタリギアを統合したもので、減速だけでなくディファレンシャルの役割も担うという。これは、2011年にZF社が前輪駆動の9HPオートマチック・トランスミッション(9速AT)に導入した同様の技術がベースになっている。

結果として、現在のオフセット設計に比べて25%の省スペース化と、10%の軽量化を実現、トランスミッションの損失も20%削減した。同時に、騒音や振動レベルは維持されているという。

統合されたモジュール式電気駆動装置は、さまざまなタスクに対応することが可能だ。内部構造が標準化されているため、新型車にも迅速に対応することができるとZF社は述べている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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