あのAクラス横転から25年 メルセデスの安全技術はどう進化した? 2050年までに無事故実現

公開 : 2022.12.20 06:25

スウェーデンの雑誌による通称「エルクテスト」でメルセデス・ベンツAクラスが横転してから25年。自動車の安全技術は大きく進化しました。現在、ソフトウェアと大量のデータが安全性向上に一役買っています。

25年で変わった安全技術 事故のない未来へ

今年は重要な記念日が多い年だったが、新年を迎える前にもう1つ思い出しておきたい出来事がある。25年前、スウェーデンの雑誌『Teknikens Varld』は、悪名高い「エルクテスト」でメルセデス・ベンツAクラスをうっかり転がし、見事に不合格にしてしまったのだ。

このエルクテストは何かと話題にされることが多いが、一部のジャーナリストによる行き過ぎた報道精神が生んだものでは、決してない。スウェーデンの運転免許試験では、「エルク(ヘラジカ)と衝突しそうになったら、どちら側にハンドルを切るか」という問題が出る。エルクテストはこれをベースにしている。

メルセデス・ベンツAクラスは1997年のエルクテストで横転し、大きな話題となった。
メルセデス・ベンツAクラスは1997年のエルクテストで横転し、大きな話題となった。

さて、目の前にエルクが飛び出してきたら、どちらに避けるのが正解か。答えは後方。ヘラジカは一度道路を渡ると決めたら止まらないからだ。

エルクテストは、地域によって「ムーステスト」や「ダブルレーンチェンジ」とも言われている。いずれも目的は同じで、走行中に急ハンドルを繰り返し行ったときの安全性を評価するというもの。ハンドルを片方へ大きく切ってから、素早く反対側へ切り返すと、クルマは非常に不安定になるからだ。

Aクラスは1997年のテストで横転してしまい、当時大きな話題となった。メルセデス・ベンツにとっては悲しい結果となったが、良い意味で、すべての自動車の安全性に多大な影響を与えた。このテストの失敗から1年後、メルセデス・ベンツはESP(横滑り防止装置)をAクラスに標準装備し、その普及を加速させたのである。

最近では、ほとんどの大手メーカーが「無事故を実現する」という目標を掲げており、メルセデスの場合は2050年までにその達成を目指している。メルセデス車の事故だけでなく、メルセデス車に関わる事故をなくそうとしているのだから、大変なことだ。

ESPがより包括的な先進運転支援システム(ADAS)に進化した今、ドライバーを守るために何ができるのか。考えるのは難しいが、必然的にその答えはデータと関係があるのだろう。

メルセデスの事故調査部門は、1969年以来事故の再現に取り組んでおり、これまでに5000件以上の事故分析を行ったという。現在では拡張現実(AR)がその作業に一役買い、インドと中国に置かれたチームがドイツの本社チームとデータを交換している。これは、事故パターンの地域差を考慮した安全システムを開発するためのものだ。

さらに最近では、英国のロンドン交通局と「Road Safety Dashboard」と呼ばれるデジタルツールを共同開発し、ドライバーの同意のもと匿名データを扱っている。ロンドン市内を走るメルセデス車からデータを収集し、事故のリスクが高い地域の特定を目指す。まず、衝突の可能性がある場所をGPSで特定し、その詳細をアルゴリズムで分析する。

その情報はデジタル地図上に表示され、地方自治体や緊急サービスの活動に活かされる。少なくとも今のところ、交通弱者と学校、保育園、大学の周辺に重点が置かれている。

さらに一歩進んだところでいうと、オランダの社会実験がある。どの道路が危険であるかを把握し、冬にはアイスバーンが発生しているエリアも検知して、中央のコントロールセンターだけでなく他の車両にも直接警告を発している。これは、メルセデスが2000年代初頭に語っていたことであり、今、ようやくそれを可能にする技術が登場したのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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