時代はシートベルトヒーター? 直接身体を暖める新技術 EV航続距離の延長も
公開 : 2023.01.25 06:25
車内の暖房といえばエアコンやシートヒーターが一般的ですが、ZF社はシートベルトを加熱することで乗員の身体を暖める「ヒートベルト」なる技術を開発しました。消費電力の削減により、燃費や航続距離の改善が見込めます。
身体を直接暖める 消費エネルギー削減に
1960年代から1970年代にかけて世界を揺るがしたエネルギー危機は、現在とは比較にならないほど深刻なものだったが、そのときでさえ、自動車のエネルギー効率を高める方法の模索はほとんどなされていなかった。
しかし、地球温暖化が問題視されるようになり、世界が環境への影響を意識しはじめたことで、企業はより効率的な自動車の開発を進めるようになったのだ。一見すると、あまり価値のなさそうなアイデアもあるが、科学的には効果が期待されていることも多い。最も新しいアイデアの1つが、ZF社のシートベルトヒーター「ヒートベルト」だ。
大量の電力を消費して車内の空気を加熱する(エアコン)のではなく、輻射熱(放射熱)を利用して乗員の身体を直接暖める方法として、メーカーやサプライヤーが真剣に検討しているのが車内のダイレクトヒーティング技術である。
廃熱を大量に発生する内燃機関のクルマの場合はいいとしても、EV(電気自動車)の場合はそうはいかない。EVの場合、車内暖房はバッテリーからエネルギーを奪うことになるため、寒地では航続距離が大幅に短くなってしまう。
身体を直接暖めるダイレクトヒーティング技術は、すでに多くのクルマで使われている。シートヒーターは1960年代から存在し、現在ではステアリングヒーターとともに快適装備として定着している。
EVでエアコンの暖房をつけると航続距離が極端に短くなるが、シートヒーターやステアリングヒーターはそこまでのエネルギーを必要とせずに、寒冷地での快適性を大きく向上させるものだ。
ZF社では、シートベルトヒーターにより暖房に使うエネルギーを削減することで、EVの航続距離を最大15%向上させることができるとしている。このシートベルトは電熱回路を埋め込んだ特殊な繊維でできており、厚みは従来品に比べてわずかに増すだけだという。
詳しい説明はないものの、シートベルトの装着時や巻き取り時に、電熱回路が邪魔にならないように設計されているとのことだ。乗員保護においても従来品と遜色ないとしており、車両側の改造も電気回路の追加など最小限に抑えられるようだ。
ZF社によれば、乗員が薄着になってシートベルトを身体に密着させることで、快適性だけでなく安全上のメリットもあるという。
もちろん、シートヒーターと組み合わせることで身体を両面から温められるだろうが、足の冷えには効果が期待できない。しかし、こうした新しい暖房技術が発展していけば、フロアに輻射熱パネルを配置するといった方法で足元の冷えも解決できるようになるはずだ。
ダイレクトヒーティングという概念は、これから自動車業界でさらなる発展・普及が期待できる。バイクの世界においては、ヒーター付きのウェアやグローブ、グリップ(ハンドル)が何年も前から使われているのだ。