モータースポーツへ接近したのか メルセデスAMG SL 55 ポルシェ911 カレラGTS 比較試乗 前編
公開 : 2023.02.04 09:45
AMG独自のモデルとして生まれ変わった、上級カブリオレのSL。どう進化を果たしたのか、英国編集部が911との比較で確かめました。
ポルシェ911との比較でSLの本性に迫る
メルセデスAMGを名乗る以前の1990年代から、清潔な工房で特別なエンジンを組み立ててきたマイスターの1人、ティモ・ノードハイム氏。彼のような人物が、高貴で豪腕なAMG SLの背後には存在してきた。タガの外れたブラックシリーズも含めて。
7.2LのV型12気筒エンジンを搭載し、傑作として名高いR129型もその1つ。だが、SLはメルセデス・ベンツの伝統と格式を備えるモデルであり、AMGはそれに華を添えただけともいえた。
しかし、2022年に大きな変化があった。メルセデス・ベンツではなく、メルセデスAMGの独自モデルへ鞍替えしたのだ。名家育ちの婦人が、ロックミュージシャンのノエル・ギャラガー氏と手を組んだようなもの。つまらない結果は想像できない。
ほぼ仕上がった状態のSLをチューニングするのではなく、AMG自ら精神を根本から見直し、開発までを担った。もはや、強化したシャシーにパワフルなV8エンジンを押し込んだ、ソフトでロングノーズなグランドツアラーではなくなった。
AMG仕様のSLという関係性ではない、シリアスなスポーツモデルとしてのAMGが目指されている。その結果、AMG GT ロードスターの存在が揺らぐことにもなるのだが。
それでは、どのフェイズのAMGが落とし込まれているのだろう。ガルウイングをまとうSLSのような、現在のブランドの象徴が目指されたのか。プラグイン・ハイブリッド(PHEV)化された4気筒を積む、最新のC 63に近いのか。
今回は、改めてR232型SLの本性に迫ってみたい。有能なライバル、ポルシェ911との比較で。
承認欲求の強いM177型V8エンジン
新型SLの国際発表会で、AMGの最高技術責任者を務めるヨッヘン・ヘルマン氏は、次のように話している。「SLの歴史を振り返ると、モータースポーツから始まったことがわかります。新しいモデルでは、その繋がりを再び生み出そうと考えました」
なかなか期待をもたせる発言といえる。今回持ち込むべきは、911 カレラGTS カブリオレではなく、911 GT3だったかもしれないと思わせるほど。
ただし、R232型にはSLとして史上初となる+2のリアシートが備わる。優雅なファブリックルーフを背負い、車重は1870kgと軽くはない。これらは、モータースポーツとの親和性が高いとはいえない。
それと同時に、ヘルマンの主張も理解はできる。真新しいアルミニウム製プラットフォームは、間もなく発表される第2世代のAMG GTと共有する有能なもの。現行のAMG GT GT3レーシングカーは、サーキットで確かな活躍を残している。
エンジンは、時流のダウンサイジング化を避けた。ノードハイム氏のプレートが、ヘッドカバーで誇らしげに輝いている。4本づつ並ぶシリンダーに挟まれた位置の、2基のターボチャージャーのすぐ隣で。
AMG謹製のM177型ユニットほど、承認欲求の強いエンジンは存在しないかもしれない。ステアリングホイールを握っていても、路肩で流麗なスタイリングのボディを見送っても、違いへ気付ける。