ターボかスーチャー、NAか ルノー・フエゴ ランチア・ベータ フォード・カプリ 吸気違いの3台 前編

公開 : 2023.03.18 07:05

1980年代に普及が進んだターボチャージャー。吸気方法の異なるルノーとランチア、フォードの3台を、英国編集部が比較しました。

1980年代の自動車業界を象徴するターボ

明るい1980年代の自動車業界を象徴する言葉の1つが、「ターボ」だろう。排気ガスのエネルギーでタービンを回し、高圧力の空気を強制的にエンジンへ導入するシステムは、販売数を拡大したい自動車メーカーにとって格好の新技術だった。

今ではコンパクトカーにも当たり前のように載っているが、40年前はまだ発展途上。BMWは1973年に2002で、サーブは1978年に99でターボを導入していたが、完成した技術とはいえなかった。高性能化への最適解というわけではなかった。

手前からシルバーのランチア・ベータ HPEヴォルメックスと、ブルーのフォード・カプリ 2.8インジェクション、シルバーのルノー・フエゴ・ターボ
手前からシルバーのランチア・ベータ HPEヴォルメックスと、ブルーのフォード・カプリ 2.8インジェクション、シルバーのルノー・フエゴ・ターボ

1980年代前半、4シーターのスポーツモデルを1万ポンド以下で検討する英国人には、ルノーかランチア、フォードという選択肢が用意されていた。それぞれ、ターボかスーパーチャージャー、無過給という、異なる吸気方法を採用して。

身近なフォードを選ぶなら、無過給のカプリ。1969年の発売以来、モータースポーツでの活躍と相まって、量産車へクーペを普及させた立役者といっていい。

スタイリングを手掛けたのは、フォードの特別プロジェクト部門でデザイナーを務めていた、フィリップ・トーマス・クラーク氏。従来のデザインを打ち破り、南フランスのカンヌが似合う優雅な雰囲気を描き出した。

1974年の2代目カプリに搭載された高出力エンジンは、英国で製造される3.0L V型6気筒、エセックス・ユニットだった。しかし、3代目が発表された1978年には、排気ガス規制の強化に伴い代替案が必要となっていた。

1565ccの4気筒ターボでV6のカプリに対抗

そこで採用されたのが、フォード・ヨーロッパが開発した2792ccのV型6気筒ケルン・ユニット。カプリ 3.0Sと3.0ギアを置き換えるかたちで1981年に登場したのが、162psのカプリ 2.8インジェクションだった。

その頃、英国にはフォルクスワーゲンプジョーなどが提供する、洗練されたシャシーのホットハッチが上陸していた。だが、リーフスプリングにリジットアクスルという、カプリの古風な後輪駆動パッケージは最後まで変わらなかった。

フォード・カプリ 2.8インジェクション(1981〜1986年/英国仕様)
フォード・カプリ 2.8インジェクション(1981〜1986年/英国仕様)

ドイツ・ケルンの工場で生産される2.8L V6は製造品質が高く、電子制御によるボッシュ社の燃料噴射で満足のいく動力性能を発揮した。当時の自動車雑誌のテストでは、0-97km/h加速を8.2秒でこなし、最高速度は214km/hに届いたという。

伝統的なフロントエンジン・リアドライブの操縦性は、熱心なフォード・ファンから愛されてもいた。特に英国での支持は強く、1984年以降、製造が終了される1986年までは、カプリ 2.8インジェクションは右ハンドル車のみが作られている。

一方、フランスのルノーは1.6L 4気筒エンジンのフエゴで対抗するため、ターボチャージャーを選んだ。小排気量による好燃費と低公害を維持しつつ、過給で大排気量に迫る動力性能を得るという考えは、ダウンサイジング・ターボの好例といえた。

ベースになったのは、オーバーヘッドバルブのA5L型クレオンアル・エンジンで、ギャレット社のTO3型ターボをドッキング。小さめのインタークーラーを介して、133ps/5500rpmの最高出力と20.4kg-m/3000rpmの最大トルクを引き出した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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